第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
『慶次、天守に無断で入るとは恐れ多いぞ!一声掛けろ!』
秀吉が慶次を窘(たしな)める。
『すまねぇ、すまねぇ。尋常じゃねぇひなの声がしたもんで…って秀吉、何してんだ。』
じろりと慶次が睨む先には、ひなを抱きしめる秀吉の姿があった。
『あ、いや、これはだな…』
慌てふためく秀吉を尻目に、信長が平然と話す。
『猿めが、焦り過ぎだ。慶次、原因は多分、俺だ。』
『は?』
『信長さまに代わって、ご説明致します。』
訳の分からない顔の慶次、そのすぐ後を追うようにやって来た家康と政宗に、三成が事の経緯(いきさつ)を説明する。
『なるほどな。ひなの体の異変が、昨今の北条騒ぎと関係してるってことか。』
慶次は腕組をして唸っていた。
『で、ひな。今は足、平気なの?』
家康が問いかける。
『うん。信長さまが言った通り、信長さまと離れてたら大丈夫みたい。』
ひなの足は、信長が近づけば痛み、離れれば元に戻るという不可思議な現象を引き起こしていた。
『俄(にわ)かには信じられないような話だが、目の前でみせられたら納得するしかないな。』
政宗も、溜め息交じりに答えた。
(足が、こうなる理由は解ったけど、これからどうしたらいいんだろう。)
『ひな、この件、佐助はどこまで知っている。』
(う、もう名指しで話されてるから、隠しても無駄だよね。)
『はい、佐助君が知ってるのは、北条家の人達が安土城を目指して集結してくるんじゃないか、っていう所までです。
私の体の事は…知りません。佐助君と別れた後起きたことなので。』
『佐助は上杉謙信の元に向かっているのか。』
『きっとそうだと思います。多方面に当たってみると言ってくれました。』
『そうか。ならば、そう時の経たぬうちに、貴様の身に危険が迫っていることも、あやつらの耳に入るだろう。』
(あやつら、って信玄さま達のことだよね。)
『蘭丸。』
『はい、信長さま。』
『佐助を追え。既にひなの体に異変が起きている、と伝えろ。それから…。』