第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
『貴様も相当、暇なようだな、蘭丸。』
信長が視線を横に移動させ呆れたように言った。
『酷いなぁ。俺は、みんなの顔が見たくて時間を作ってるんです。』
蘭丸が頬を膨らます。
『そういうことにしておいてやる。ひなの丁度いい遊び相手にはなるだろう。』
(遊び相手って…。)
『それで?急ぎの用なんじゃないのか?』
信長に即されて、先程の出来事を掻い摘んで話した。
『なるほど。北条の亡霊どもの狙いが、貴様かもしれんというわけだな。』
『はっきりしたことは解りませんし、絶対にそうだとも言えません。
私の足の異変も、もしかしたら全くの無関係かもしれない。
でも、ある人が聞いたっていう『五体が揃えば再び我等の世がやってくる』という言葉が気になって…。』
(一応、佐助くんの名前は伏せておこう。)
『ある人、か。何処の忍びかは聞かんでおくか。』
(即バレ!)
『くっくっ…、カマをかけただけだったが大当りか。貴様は顔に出過ぎだ。』
(ううっ、気持ちと直結しすぎな私の顔よ!)
『足は痛むか?』
『いいえ。所々、色が変わってるだけで何も感覚が無いんです。』
そう答えると、信長が立ち上がり、ひなに一歩近づく。
(んっ?)
ひなの左足にチリッと焼けるような痛みが走った。
『どうした?』
『いえ!何でも…。』
更に一歩。
『いっ…!』
(なにこれ?焼けた鉄でも当てられたみたい。)
『やはり痛むのか?』
気遣わしげな信長の手が左足に触れた時。
『いやっ!』
思わず大声で叫び、信長の手を払い除けていた。
『こら、ひな。信長さまは、お前の事を心配して…。』
(ごめん、秀吉さん。そんな事、解ってるけど今は無理!)
左足を抑えて震えるひなの額を、脂汗が伝う。
『ひな?』
秀吉は、ひなの足に触れていいものか戸惑っていた。