第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
『ふふっ。強がって無理しなくていいよ。なんなら俺が抱っこして連れてってあげるから。』
笑いながら気遣う蘭丸に、ひなは引きつった笑いを返す。
『抱っこは恥ずかしから、遠慮しようかな。』
『あ、正座して物凄く真剣に話してたから、足が痺れちゃった?』
(無理してるわけじゃない。それに痺れとも違う気がする。)
怪訝な顔で固まるひなを見て、蘭丸が何かを悟り問いかけた。
『何処か体が おかしいんだね?』
ひなが、こくりと頷く。
『取り合えず座ろっか。』
支えられながらゆっくりと座り込み、ひなは自分の左足に手で触れた。
『!?』
(おかしいな。触ってる感覚が…ない。)
『ひなさま、無礼を承知で尋ねるね。着物の裾、捲(めく)ってもいい?』
その問いかけに、戸惑うように一瞬、蘭丸を見つめたひなだったが、『うん…。』と小声で答える。
『ありがと。それじゃ、ちょっと足、伸ばすね。』
不自然に曲げていた足を、蘭丸がそっと真っ直ぐに伸ばす。
羽のように優しい手つきで、そっと裾を捲った。
(うぅっ!深く考えずに返事しちゃぅたけど、これ、なんか、いけないことされてるみたい。)
顔に熱が集まるのを必死で耐える。
『…ひなさま。最近どこかに足ぶつけたりした?』
『へっ!?』
(やばい。変な声出ちゃった。)
目をパチクリさせて蘭丸が笑う。
『ふふっ。俺に触られてドキドキしちゃった?』
(いつもより低めの声が、なんか、くすぐったい。でも…。)
『ごめん、そうじゃなくて…。触られてる感覚が無いの。』
『え?』
蘭丸の顔から笑みが消え、ほんの少し逡巡したあと、口が開く。
『その目で見た方が早いよね。ひなさま、ゆっくり自分の足を見て。』
そう言われ、捲られた着物の裾に、静かに視線を落とす。
『え?』
ひなの左足は、蘭丸が言う通り、何処かで打ちつけたかのように、ところどころ紫色に変色していた。