第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
『…五体が揃えば、再び我等の世がやってくる。』
『え?』
(どういう意味?)
『五体?五代じゃなくて?』
蘭丸も不思議そうな顔で聞き返す。
『俺も又聞きだから、どういう意味かは解らない。
だが、いい意味じゃ無いとは思う。ひなさん、何処から敵がやってくるか解らない。
城内と言えども絶対に一人にならないようにしてほしい。』
『わ、解った。』
佐助の真剣な声音に、どもりつつ返事をする。
(今すぐ どうこうって訳じゃないんだろうけど、警戒するにこしたことは無いもんね!)
ふと辺りを警戒する素振りを見せ、佐助が言う。
『俺は長居出来ない。ここは、ひとまず蘭丸さんに任せます。』
蘭丸が頷くのを確認すると、佐助は深々と頭を下げた。
そうして、不安を断ち切るように畳を蹴って飛び上がり、天井板の開いた隙間に、するりと体を滑り込ませる。
(わ、すごい!一瞬で消えちゃった。)
すると、佐助がひょこっと顔を出し、
『俺も多方面に当たってみる。ひなさん、くれぐれも気を付けて。』
そう言い残すと、今度は本当に天井裏に消えた。
『だーいじょうぶだよ、ひなさま!そんな心配そうな顔しないで。
ひとまず、このことを信長さま達に報告に行こう。』
蘭丸が笑顔で声を掛ける。
(私、そんなに不安が顔に出てたかな。)
ふーっと一息、長い息をつく。
(いけない、いけない。何かが起こるかもっていう憶測だけでビビッてたら、元・女信長の名が廃るよ!)
『ごめんね、蘭丸くん。心配かけて。起こるか判らないことに怯えるなんて、私らしくないよね。
もう大丈夫!それじゃ、信長さまの所に行こうか。』
そう言って立ち上がろうとしたとき、妙な違和感を覚えた。
(あ…れ?)
『ひなさま!?』
足がもつれて転びそうになったところを、蘭丸が咄嗟に抱き支える。