第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
『えぇっと…ここって、たしか元就さんがいる安芸、だよね。』
『うん、そう。それから、越後。』
今度は右手の人差し指で地図を指す。
ふむふむ、と頷きながら地図を見ていると、蘭丸の右手と左手が、ゆっくりと地図の上を滑る。
『河内……伊賀……。』
※河内~大阪のこと
(…ん?)
するすると動いていた両の人差し指が、ぴたりと寄り添って止まる。
『これって…。』
地図を凝視して固まるひなの心を読んだように佐助が呟いた。
『ここ(安土城)、だな。』
『ご名答!』
蘭丸が にやりと笑い、地図から離した右手の人差し指を佐助に向ける。
地図上に残る左手の人差し指は、"本丸"という文字の横にあった。
『すっごい偶然!蘭丸くん、よく気付いたね。』
ひなが感心しながら言うと、蘭丸の顔から笑みが消える。
『本当にただの偶然かなぁ?』
『え…?』
蘭丸の視線に射抜かれて、ひなが言葉を失った。
『俺には、何かを探して近づいて来てるみたいに見えるんだけど。』
(なにかって…なに?)
ひなのこわばる顔を見て、慌てたように蘭丸が付け加える。
『なぁ~んてね。驚かせたくて言ってみたんだ、俺の勝手な想像!
ひなさまが言うように、きっと、ただの偶然だよ。』
そう言うと、蘭丸は急いで地図をしまおうとする。
『いや、蘭丸さん。待ってくれ。』
佐助が蘭丸の手首を掴んだ。
『俺も蘭丸さんの意見に賛成だ。』
『佐助くん…?』
『ただの偶然で片づけてしまうのは危険だと思う。
考えたくは無いけど…君を追って来ていると考える方が、しっくりくる。』
『私を!?会ったことも見たこともない人達だよ?』
(北条家って…そりゃ名前くらいは聞いたことあるけど、それだけだ。
今の私とは掠りもしないはず。なのに、どうして?)
『ひなさんには伝えてなかったけど、実は、北条早雲を目撃した人達が、おかしなことを言っていたと聞いた。』
(北条早雲は越後で目撃されたんだっけ。)
『なんて言ってたの?』
蘭丸が、ひなの心を代弁するように尋ねる。