第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
驚いて目を見開き、佐助の肩越しに見たのは、蘭丸の姿だった。
『ひなさま、あけましておめでとー。』
そう言いながら近づいて、ひなに抱きつく。
『わっ!うん、明けましておめでとう、蘭丸くん。今年も宜しくね。』
ひなが笑顔で答えるのと同時に、佐助は蘭丸の両腕を後ろから、やんわりと掴んで解いた。
『痛ーい!!』
蘭丸が大げさに痛がるのを冷めた目で見つめながら、佐助が言う。
『不覚だ。全く気配が読めなかった。
それにしても、蘭丸さんはスキンシップが半端ないな。
…これはまさに、可愛さ余って憎さ百倍状態?』
(佐助くん、首傾げながら…怒ってる?)
『えー、酷ーい!違うよ、俺とひなさまの距離は、いつもこうなの。ね、ひなさま♪』
『うーん?そう…だっけ?』
『そうだよ~。っていうか、せっかく俺が集めた情報教えようと思ったのに、佐助殿が痛いことするならこのまま帰っちゃおっかなー。』
いとも簡単に掴まれた腕をすり抜けると、蘭丸は試すような眼で佐助を見た。
(二人の間に火花が散ってるのは気のせい?
忍び同志だから、どっちが上かっていうプライドがあるのかな。)
『…はぁ、今回は参りました。蘭丸さんの得た情報を、ぜひ俺達にも教えてほしい。』
佐助が、両手を太ももの上に置き、ぺこりと頭を下げた。
ひなも、その先が気になって、「うんうん」と首を縦に振りながら蘭丸を見つめる。
『もっちろん!教えたげる♪』
すとん、とひなの隣に座ると、蘭丸が話し始めた。
『二人とも、「北条五代」って呼ばれてる北条家の当主達が、各地で目撃されてる事は知ってるよね。』
『ああ。その情報なら、信玄さまたちも、信長さまたちも、既に把握している。』
佐助がひなに目配せをすると、ひなも同意するように頷く。
少し間をおいて、蘭丸がゆっくりと口を開いた。
『それじゃ、目撃される場所が少しずつ何かに近づいてる事は?』
『え?』
ひなが首を傾げながら聞き返すと、蘭丸は懐から大きな地図を取り出した。
それを二人の目の前に広げ、とん、と左手の人差し指で一箇所を差す。
『北条氏康が目撃されたのが、ここ。』