第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
『見つかっちゃった。』
『きゃっ!…って、佐助くん!?』
何気なく視線を向けた天井で目が合ったのは、逆さまの佐助の顔だった。
『よっ。』
くるりと回転しながら飛び降りると、いつもの無表情で言う。
『ひなさんの勘は日に日に鋭くなっていくな。どんな鍛錬をしてるのか、今度じっくり教えてくれないか。』
『いや、私は何もしてないよ。どっちかというと、佐助くんの忍ぶ力が上がってるだけ。
で、今日はどうしたの?あ…。』
(言いかけて大事な事を忘れていた事に気付く。)
『あ?』
『あ、けましておめでとう、佐助くん!今年もよろしく。』
ひながペコリと頭を下げた。つられて佐助も頭を下げる。
『そうか、年が明けて君に会うのは初めてだったな。ご丁寧にありがとう。こちらこそ、よろしく。』
表情を変えずに佐助が言った。
『今年も安定のポーカーフェイスだね。やっぱり落ち着くよ。』
『重ね重ね、ありがとう。俺の無表情筋も、きっと喜ぶ。』
2人でクスクスと笑い合う。
『ずっと、こんな風に楽しく過ごしていたいんだが…大事な話がある。』
佐助が、すっと険しい顔になる。
『もしかして、北条家の人達のこと?』
『ああ、もう織田軍も動く頃だろうと思っていたけど、さすが信長様アーンド信長ブラザーズ。』
(ブラザーズって…まあ、みんな兄弟みたいに濃い繋がりあるもんね。)
『ひなさんの耳にも入っているなら話は早い。
聞いての通り、俺が君に会いに来たのは、最近 日ノ本各地で目撃されている北条五代の武将達の事でだ。
俺達、軒猿と兼続さんの隠密部隊は、各所に散って情報を集めているんだけど…。』
『だけど?』
珍しく、佐助の眉間に皺が寄るのを見て、ひなが驚く。
『何か大変な事が起こりそうな気がして。』
『大変なこと?あちこちで戦が起こるとか?』
佐助は腕組みをしながら唸っている。
『いや、戦なら、この乱世どこで起きても不思議はない。
確証は無いんだ。でも、とても嫌な予感がする。』
『こういう時の勘って意外と当たるものだからねっ。』