第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
『そうなんだ。』
ひなの口から思わず言葉が漏れる。
『…ここにいた。解ってない奴。ま、あんたは、しょうがないんじゃない?まだこの時代の事は勉強中なんでしょ。』
『そうですね。ひなさまは、いつも歴史書などで勉強されていて素晴らしいです。私も見習わなくては!』
(二人の優しさが余計に痛い…。)
『ありがとう、二人とも。』
申し訳無さそうに、ひなが礼を言った。
『さて、話を続けていいか?』
光秀に聞かれて、ひなは頷きながら背筋を伸ばす。
『昨夜、目撃されたのは、お前たちの予想通り、4代目北条家当主「北条氏政(うじまさ)」だ。』
『それは一体どこで目撃されたんだ。』
険しい顔で秀吉が問う。
『伊賀との境目辺りらしい。』
束の間、秀吉がホッとした顔をする。
『そうか。まだ、城からは少し離れているな。それに、伊賀ならば半蔵もいることだしな。』
その言葉に、家康も静かに頷いて言葉を続ける。
『もしもの時は、甲賀も駆け付けるでしょうしね。』
(伊賀の半蔵…、服部さんのことだ。甲賀って…もしかして甲賀忍者のことかな?)
顎に手を当て悩むひなに答えるように、家康が告げる。
『忍者同士、助け合うのが当たり前なんだよ、この時代では。
ひなが暮らしてた時代では、どうか知らないけど。』
『そうなんだ。』
(っていうか、今から500年後には、忍者稼業は無くなってるもんな。)
納得しながらも心で思う。
『とにもかくにも、北条五代が揃い踏み、というわけだ。』
信長が眼光鋭く言い放つ。
『まだ我らに被害は無いとはいえ、いつ仕掛けてくるやもしれん。
秀吉・光秀を筆頭に、速やかに対北条部隊を編成し、不測の事態に備えろ。以上だ。』
『『はっ!』』
その返事を最後に、会合はお開きになった。武将達は各々、割り振られた任をまっとうすべく散ってゆく。
ひなは一人、自分の部屋へと戻った。
(特に何をやれとは言われて無いけど、何か私に出来ることはないのかなぁ。)
そんなことを考えながら宙を見る。