第15章 義元
(500年後の京都です。)
うふふ、と笑いながら心で答える。
『猿飛呉服店…というところです。』
『猿飛呉服…はて?安土の呉服屋は網羅したつもたりなんだけどなぁ。』
『あのー…そろそろ手、離して頂けますか?さすがに往来で肩を抱かれてるのは…。』
『ああ、これは失礼したね。』
ゆるゆると男の手が手首まで降りる。
『痛っ!』
(判子を押し続けて(その程度のことで…)手首を痛めてたんだった。)
『おや?』
ひなの声に、男が そっと袖口を捲る。
男は、ひなの手首をふわりと両手で包み込むと、そっと撫でた。
『…手当て。少しは痛みが和らいだかな?』
口許に笑みを浮かべて ひなを見つめる。
ひなの頬が、みるみる赤くなり男が くすりと笑う。
『頬、着物みたいな色になったね。ところで、君の名前は?』
『ひな…です。』
(あ、しまった!つい本当の名前を…。)
『ひなか。それもまた美しい名前だね。俺の名は義元。今川義元だ。また会うことがあれば、思い出してよ。』
そう言うと、いつの間にか歩き去っていた。
(あの人も有名な武将…。)
でも全然、争い事をするイメージが沸かない。
たまには、そんな武将がいても いいよね…と思いながら、ひなは小さくなる背中を目で追っていた。