第15章 義元
その日の政務をなんとかこなす。
(半ば強制的に判子を押さされてたような…。
元の時代の仕事でも あんなに判子、押したこと無いよ。
おまけにサインは…もちろんだけど、筆でだし。)
謁見も、隣にいた秀吉が何かと口添えをしてくれて、怪しまれることもなく終えた。
ひなは「天守で過ごす。」とだけ伝えて、足早に部屋に入り襖を締める。
『腕が痛ーい…。はぁぁぁー。』
これが毎日 続くのかと思うと、お腹の底から溜め息が漏れた。
ふと目の前に掛けてある着物に目が行く。
(あ、あの着物も借りっぱなしだなぁ。)
そっと衣桁から外し考えた。
そうだ、京都の散策、途中だったんだよね。
『よし…500年前の近江八幡を散策しようじゃないのっ!』
いそいそと着物を着替えると、そっと天守を出る。
足早に廊下を抜け、誰かに会ったら女中のふりをしつつ、なんとか東の城門を抜け出した。
『はー、安土城ダンジョン、なかなか難しかった!』
ひながボソッと呟く。
『なにが難しかったの?』
横から、ゆったりとした声がする。
見ると、口許にほくろのある男が、ひなの事を じっと見つめていた。
え、誰だろう。男の人なのに、凄い色気…。でも見たことない人だなぁ。
その男は、すすっと近付くと、そっとひなの肩を撫でた。
『美しいね…。』
『へっ!?』
想像していなかった言葉に、ひなは たじろぐ。
『この滑らかな手触り…初めて見る染めだねぇ。これは江戸小紋?何処で仕入れたの?』