第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
(うーん、確かに。あっちこっちの戦に出陣してるらしいし(特に謙信さまは)、みんな普通に自分の城で暮らしてるしね。)
考えていると、家康が不服そうに言い足す。
『じゃあ一体、誰だって言うんです?』
一呼吸置いて光秀が続けた。
『お前達、北条五代(ほうじょうごだい)を知っているか。』
光秀の問い掛けに、三成は控えめに声を上げる。
『もちろんです。北条五代と言えば、今から100年余り前に亡くなった、初代・北条早雲(そううん)殿に始まり、
現当主の北条氏直(うじなお)殿まで続く、由緒ある家柄の当主を尊敬の意を込めて呼ぶ言い方。…それが何か?』
三成は小首を傾げる。
(えーと…朧気な記憶でしかないけど、北条家って、確か関東をおさめた有名な武将達だったよね。)
『間者の話によると、毛利家のお膝元・安芸では、十数年前に亡くなった三代目当主「北条氏康(うじやす)」が支城を襲撃し、
越後では、小競合いがあった数カ所で度々、初代当主「北条早雲(そううん)」の姿を見たと言う。
大坂の八軒家(はちけんや)船着場では、こちらも亡くなったはずのニ代目当主「北条氏綱(うじつな)」が船に乗っていたとかいないとか…。』
静かに耳を傾けていた武将達が、にわかにざわめき出す。
『そんな馬鹿みたいなことが…って、無いとは言い切れねえか。』
慶次がチラリとひなを見る。ひなも半笑いで頷いた。
(私や佐助くんは別の時代からやってきてるし、信玄さまや謙信さまは、亡くなったと言われてたのに生きてるもんね。)
『補足すると、昨夜、俺たちがいい気分で酒を酌み交わしていた頃、ここ安土の外れでも、ある人物が目撃されている。』
『それって、この話の流れから行くと…。』
『『四代目?』』
三成と声が重なり、家康が三成を睨む。
『おや、家康さま。気が合いますね。』
嬉しそうに言う三成にため息をつき、
『こんなの解らない奴いないでしょ。光秀さんは亡霊が暴れまわってるって言ったんだから。
五代目に至っては、まだ生きてるんだし。』