第62章 譎詭変幻(けっきへんげん)
寒雀(かんすずめ)の囀(さえず)りに、ひなは眠い目を擦る。
『うーん…。』
ひとしきり大きく伸びをして体を起こした。差し込む光に、昼に近いことを知る。
『痛たた…、頭痛い。二日酔いだぁ。昨夜、楽しくて飲みすぎたー。』
飲めや歌えの大騒ぎは真夜中を過ぎても終わることを知らず、
ひなが自室に帰り着いたのは、結局明け方近くだった。
(まあ、いいか。今日も明日も特に何も予定は無いことだし…。)
『三が日、最高。』
小声で呟き、のそのそと布団に潜ろうとした時、眼の前の障子が外れんばかりに開かれた。
『いつまで寝こけてるんだ、この寝坊助!』
『ま、政宗!?』
登りきる前の太陽を背に政宗が立っている。
すると、すーっと視線が降り、にやりと笑う。
『…ごちそうさま、ってやつだな。』
『へ?』
視線の先を辿ると、着物がはだけて、胸の頂きが見えそうになっている。
『うひゃっ…もう!声くらい掛けてよ!』
慌てて合わせを押さえながら、上目遣いに怨み言を言う。
『あのなぁ。言っとくが声を掛けるのは、これで三度目だ。』
『えっ、ほ、ほんと?』
(三度も、この大声で呼ばれて気付かなかったの?私。)
『ああ。物音ひとつしないんで、流石に心配になって障子を開けてみたら、お前が俺を誘ってたってわけだ。』
しゃがみ込んで言うと、まだ少し開いたままの合わせに、政宗が指をかける。
『わっ、誘ってません!でも、起こしてくれてありがとう、政宗。』
『ふっ、どういたしまして。そりゃ起きれないだろうよ。昨夜、いや今朝か?は、随分と呑んでたしな。
ま、思いがけない褒美も貰えたことだし、良しとするか。』
片眉を上げる政宗をみて顔に熱が集まるのを隠し、ひなが尋ねた。
『それより、どうかしたの?わざわざ起こしに来てくれるなんて。…何かあったの?』
いつもは自分で起きる為、ひなは誰かに起こしてもらうことは、ほぼ無い。
それに、少し寝坊した位で慌てて起こされることも無い。