第61章 綢繆未雨(ちゅうびゅうみう)
不思議そうな顔で、佐助が聞き返す。
『え?信玄さまに伝えるのは、今すぐではなく、宴が終わってからでいいんですか?』
『ああ、構わん。』
言いながら、離れた場所で楽しそうに、幸村や他の家臣らと酒を酌み交わす信玄を見やる。
『あやつには時間が無いのだ。本心としては、少しでも戦を忘れ、楽しい時を過ごさせてやりたい。
せめてこの、一時(ひととき)だけでも。』
『謙信さま…。』
『まあ、そう悠長な事は言っておられんのかも…しれんがな。』
目を伏せ、謙信は再び盃の酒を味わう。
『…染み入る美味さだな。』
佐助も静かに頷いた。
〜兼続は、佐助の言うように、既に城の程近くまで来ていた。
『もう佐助の口から謙信様に伝わっている頃だろうが…。
この摩訶不思議とも言える事態、どう対処するべきか。』
この時は、まだ、日ノ本各所で起きている怪事件に、自分も含め、ひなまで巻き込まれることになろうとは、誰も思っていなかった…。
※綢繆未雨(ちゅうびゅうみう)〜しっかりと準備をし災害などが起こる前に防ぐこと。