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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第61章 綢繆未雨(ちゅうびゅうみう)


先程、無礼な発言をした新入りの家臣達に告げる。

『『『はっ、申し訳ございません。謙信殿、大変失礼致しました。』』』

新入りの家臣達は、頭を畳に擦り付けながら謝ると、そそくさと その場を離れた。


謙信は複雑な表情で、畳に刺さった刀を抜く。


『何故だろうな。俺にも解らんのだ。

これほどまでに、あの女が気掛かりな意味が。』

愛刀の姫鶴一文字を見詰めながら、謙信が誰にともなく呟く。


『本人に解らないものが他人になど解るまい。

ひとつ言えるのは、刀は打っても何も言わないが、人は、打てば響くということだ。』

そう言うと信玄は、がさごそと袂(たもと)を探り、また1つ御守りを取り出した。

『これはお前から兼続に渡しておいてくれ。』

謙信の掌に乗せられたのは、本紫色の御守り。

『俺達も向こうで呑むか。それじゃあな、謙信。』

そう言い残して、幸村と共に別の一角へと歩いていった。

その姿を見送り、広間にいる他の者には聞こえないように、佐助が耳打ちする。

『謙信さま。調べるように言われていた件ですが、当初の疑念が当たっていたようです。

小競合いがあった数カ所で、度々同じ者の姿が目撃されています。

古参の家臣曰く、巻物で見た北条早雲(ほうじょうそううん)に良く似ていたとか。』

『北条早雲?100年ほど前に没した、北条家の初代当主だな。』

謙信が顔色を変えずに答えた。

『ええ。それで、馬鹿げた話だと思いつつ、兼続さんと手分けして調べていたんですが、

似たような事が毛利家のお膝元、安芸(あき)や、大阪でも起きているようです。』

『なに?』

流石の謙信も、整った眉をピクリと動かす。

『どういうことだ、あちらこちらに先祖共の霊が彷徨(うろつ)いているというのか。

盂蘭盆会(うらぼんえ)でもあるまいに。』
(※盂蘭盆会〜お盆のこと。)

『確かにそうですね。お盆ならご先祖様も帰ってきそうです。  

と言っても、今回の目撃談は彼らの地元じゃありませんけどね。』

暫く考慮してから謙信が口を開く。

『兼続は何処だ?あ奴にも話を聞きたい。』

『もうこちらに着く頃かと。取り急ぎご報告をと思い、俺だけ先に戻ったので。』

『そうか。では、この宴が終わったら、早々に話がしたいと信玄にも伝えろ。』
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