第14章 蘭丸
『人に弱い所なんて見せたこと無かったのに…。
戻ってきてから変ですよ。ねぇ、信長さま?本能寺で何があったんですか?』
ひなの背中が欄干に押し付けられるほどに蘭丸が体を寄せる。
『な、何がって…誰かが企んだ謀反に巻き込まれて死にかけた。』
『それだけ…ですか?』
主君が死にかけたのに、それだけって…。顔をしかめると、蘭丸は慌ててひなから離れた。
『えへへ、ごめんなさい!なんか変なこと言っちゃって。
何か困り事でもあるのかな?って気になっちゃって。』
あ、もういつもの蘭丸の顔に戻ってる。でも、何か気付いてるのかな…。
よし、かまをかけてみよう。
『そういう蘭丸こそ、よく何処かへ出掛けてるみたいだけど、どうかしたの?』
ピクッと蘭丸の肩が揺れた。そして、何も聞いていなかったとでも言うように、にっこりと笑う。
『あ、綺麗な紫陽花!ねぇ、信長さま、少し摘んで広間に飾りましょうよ。』
橋の際に咲く紫陽花を数本、手折る。
『蘭丸、紫陽花の葉には毒があるって言われてるから、気を付けて。』
『はい!』
そのまま蘭丸は庭を後にした。
紫陽花の花言葉って、確か「移り気」とか「冷淡」だったよな…と、ひなは ぼんやり考えていた。