第60章 感恩戴徳(かんおんたいとく)
『金銀○○○両、米○○○石(こく)、絹織物○○○反、
刀○○○振(ふり)、右、契約不履行の償(しょう)として納める…との事です。』
(※償…損失に見合うものを返すこと。また、つぐなうこと。)
読み終えると、秀吉は信長の方を見た。それには答えず、信長は盃を傾けている。
『直接、俺が取引出来なかった詫びだ。これくらいで手打ちにしてくれ。』
『…。』
元就の言葉から一拍おいて信長が口を開いた。
『さて、貴様との取引は無事に終わったはずだが。ひな、何か詫びられるような出来事があったか?』
信長は相変わらず杯を傾けながら、ひなに尋ねる。
『え?ええと…。』
(元就さんは、織田軍と武器売買の取引をしてた。
他人を信じない元就さんの事。きっと取引は、今まで直接 自分が行っていたんだろう。
それが今回、訳あって顕如さんに頼んだと聞いた。
つまり元就さんは、自分で引き渡しが出来なかったから、お詫びしますって言ってるんだよね。
でも信長さまは、無事に終わったじゃないか、って答えてる。それって、色々あったけど許すってことなんじゃ…。)
『さぁ~、なんのことでしょうねぇ。私、今日は浴びるほどお酒を飲んで酔ってしまったので、お、思いだせないなぁ。』
ひなは両手を広げて、在らぬ方を向きながら言う。
(うっ、我ながら下手くそな演技。)
『てめぇら、二人して「惚け者(ほうけもの)」気取ろうってか。
(※惚け者~ほうけている者、ぼんやりした人)
ハッ、分かったよ。だが、わざわざ持ってきた品物を「はい、そうですか。」と持って帰る訳にはいかねぇなぁ。
そうだな、それじゃ正月祝いだと思って納めてくれ。』
元就がポンと膝を叩いて提案すると、信長も快く了承する。
『なるほど、それなら構わん。ありがたく受け取っておく。』
(良かった。なんとか丸く収まったみたい。)
話がついたことを悟ってか、多数の家臣が、信長に酌をしに寄って来た。
右からも左からも、酌の嵐だ。
(ふふ、暫く終わりそうにないな。)
ひなは静かに立ち上がり、邪魔にならぬように場所を空けた。
『は…っくしゅん‼』