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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第60章 感恩戴徳(かんおんたいとく)


『私はもう、だいぶ呑んでるので・・・。』

さりげなく腕を振りほどこうとすると、

『あいててて・・・。』

元就が体を折り曲げ声を上げた。

『え、ごめんなさい!痛む所に当たりましたか?』

身をかがめて元就の顔を覗き込む。元就は、ひなに見えないように、にやりと口に弧を描いた。

『あぁ、痛ぇところにな。』

(どうしよう!元就さんが痛いだなんて、よっぽどの事かも。)

眉を八の字にしながら、ひなが元就の体を確かめる。

『そこじゃねぇ。ここだ。』

元就は、ひなの片手を掴み、少しはだけた胸元に押し当てた。

規則正しい心音と体温に、心臓が音を立てる。

慌てて手をどけようとするが、元就にがっちりと掴まれていて、それは叶わない。

『は、離してください!』

だが、ひなが、そう声を上げると、あっさりと手を離した。

『ちっ、他人に触れられんのが苦手な俺が、わざわざ触らせてやってんのによぉ。』

(え、そうなの?っていうか、むしろ私は元就さんから触られてる気がするけど。あ、もしかして。)

『だから、いつも白い手袋を?』

『ご名答。てなわけで、ちっとはありがたがれ。』

(えぇぇぇ、そんな勝手な。)

『…お前に拒絶されると、心が痛ぇんだよ。ほれ、入るぞ。』

そう言うと、元就は一人で さっさと襖を開ける。

(ん?なんか今、ツンデレなこと言われたような。)

『早くしろ。くそ寒い中、馬で来たから凍りそうだ。』

『え、あ、はい。』

(気のせいか。)


元就は、ずんずんと信長の前に近づくと、どかっと腰を下した。

無作法な来客に、近くにいた家臣達が、ざわつく。

『何奴(なにやつ)!』

長政が腰の刀に手をかけ、いけ好かない風貌の元就を警戒する。

『そうカッカしなさんなって。お前とは初対面でも無いことだしよ、浅井の。』

元就の問い掛けに一考し、長政が驚きの声を上げた。

『貴様、毛利元就か…。』

『いかにも。その節は家臣共々、世話になったな。

闇討ちなんて俺でも使わねぇ卑怯な手を使ってくれて、どうも。』

元就が紅玉色の瞳で、ぎろりと睨みつけ、気圧された長政が一歩下がる。
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