第59章 傾国美女(けいこくのびじょ)
『幸せそうで何よりだ。』
『うん。あ、その幸せの中には、もちろん政宗の手料理も入ってるからね。
手伝いも任せて!』
ひなが腕を曲げて力こぶを作る。
『こりゃ責任重大だな。そう日も無いし、早速だが仕込みに入るか。
足りない食材も買い出しに行かないとな。
にしても、お前、料理なんか作れるのか。』
『完璧!と言いたいところだけど、簡単な事しかできないので教えて下さい、師匠。』
笑いを堪えながら、政宗が言う。
『弟子は取らない主義だが、ま、仕方ないな。特別に教えてやるよ。
そうと決まれば…ひとまず台所へ直行だな。』
『了解ですっ!』
『いい返事だ。』
今度は二人で台所へと向かう。
『…あとは、黒豆と、小松菜ってとこか。』
『解った。じゃ、私、今から城下に買い物に行ってくるね。』
足りないものを書き記した紙を懐に入れ、ひなは意気揚々と台所を出る。
その袖口を、しっかと掴んで政宗が止めた。
『おいおい、待て待て!どれだけ買うと思ってんだ。
お前一人じゃ無理だ。誰か連れて行け。
秀吉…は一緒だと、お前に何だかんだ買っちまいそうだし、三成は…論外だな。
慶次を一緒に行かせるから、ちょっと待ってろ。』
言い残して、政宗が出ていった。
程無くして慶次を引き連れ戻って来る。
『それじゃ二人共、たのんだぞ。』
『まーかせとけって!力じゃ安土城の誰にも負けねぇ自信があるぜ。行くぞ、ひな。』
『え、ちょっと!じゃ、行ってくるね、政宗。』
小走りに去る背中に『気をつけろよ。』と声をかけ、政宗は仕込みに戻る。
(やっと追い付いた!)
『慶次ってば待ってよ!一人で行っても何買うか解んないでしょ。』
慶次が、はたと立ち止まる。
『ああ、言われてみりゃそうだな。俺としたことが、うっかりしてたぜ。』
振り向きざまに、人好きのする笑顔を浮かべる慶次に近付く。
慶次が腰を折って、ひなの耳元で囁いた。
『お前と逢瀬に行ってるみたいで、気が急いて、ついな。』
(逢瀬…ってデートの事だよね!?)
『な、何バカな事言ってるの。ただの買い物だから。』
ペシッと慶次の頭を叩いて先を歩く。
『痛っ!お前なぁ、仮にも武将の頭を叩(はた)くなってえの。』
『慶次が変なこと言うからでしょ。』