第59章 傾国美女(けいこくのびじょ)
「拝啓
寒さ厳しい折、冬のひだまりが、ことのほか暖かく感じる季節になりました。
ひな様は、いかがお過ごしでしょうか。
先日は我が夫、長政が多大なご迷惑をお掛けしました事、平身低頭お詫び申し上げます。
ひな様がいらっしゃらなければ兄上は、長政に死を持って償うように命じていた事でしょう。
貴方の存在が、思い留まらせてくれたのだと思っております。
本当にありがとう。この御恩は忘れません。」
(もう、大袈裟だなぁ。私は何も。)
ひなが照れ臭そうに微笑む姿を、信長と政宗が優しく見守る。
「ところで、前々からひな様と、お手紙の中でお話していた件ですが」
(話していた件?)
「早くお会いしたいとの願いが叶えられそうです。
今度のお正月、夫婦で安土へ馳せ参じたいと思っております。
兄上には既に許しを得ておりますが、ひな様のご都合はいかがでしょうか。
良いお返事を、お待ちしております。
敬具」
(市さんが、安土に!?)
ガバっと顔を上げて信長を見る。
『くっくっ、その顔は、応諾と取って良さそうだな。』
(※応諾〜人の頼みや申し出を、そのまま受けること。)
『はいっ!すぐに返事も書きます。』
『解った。俺からも伝えておく。
政宗、貴様には正月料理の一切を任せる。良きに計らえ。』
『はっ、仰せの通りに。』
政宗が深々と頭を下げた。
二人で天守を後にしながら、ひなは胸が躍るのを止められずにいた。
(うわぁ…、市さんに会えるんだ。)
『ふっ、楽しそうだな。』
『うん!手紙をやりとりしてる時から、すっごく気が合うなって思っててね。
ずっと会いたかったけど色々あって、会う機会も無かったから。』
弾む声で答えるひなを、政宗は目を細めて眩しそうに見詰めた。