第59章 傾国美女(けいこくのびじょ)
『ひな、お前を探してた。信長様がお呼びだ。一緒に天守へ来てくれ。』
『信長さまが?解った。でも何だろう?』
『さあな、また何かやらかしたんじゃないのか?』
『また、って…』
失礼な、と言いかけて口をつぐむ。
(しょっちゅう、やらかしてるから反論しにくい。)
『で、でも、ここのところは何もしてないよ。多分。』
自信なさげな反論を、政宗は可笑しそうに笑う。
『ははっ、冗談だ。ほら、行くぞ。』
天守へ向かい歩き出した政宗の背中を見て、ひなが吹き出した。
『あはは!』
政宗は怪訝な顔で、ひなを覗(うかが)う。
『ん?急にどうした。』
『政宗。背中、触ってみて。』
『背中?』
政宗が自分の背中に手をやると、1枚の紙が貼られている。
急いで剥がし見ると…。
[俺様は暴れん坊将軍だ]
『なんだこりゃ!?…蘭丸の野郎、いつの間に!』
くしゃくしゃと紙を丸め、今にも走り出そうかという政宗に声をかける。
『今、追いかけたら、「やっぱり暴れん坊将軍だー」って大はしゃぎ されちゃうよ。』
『くっ、確かに。まったく、あいつ可愛い顔して油断も隙もねぇな。』
政宗が、ひとつ大きな溜息をついた。
『信長さま、ひなを連れてきました。』
『入れ。』
信長の低い声が答えた。
『失礼します。』
『やっと見つかったか、ひな。そばに来い。』
天守には、書簡を広げ読む信長の姿があった。
『信長さま、あのう、私また何か…。』
おずおずと尋ねると、視線が書簡から ひなに移る。
『市からの手紙だ。ひなにも届いているだろう。』
(ああ、信長さまが読んでいたのは、お市さまからの手紙だったんだ。)
『はい。あー、まだ中身は見てないんですけど。』
『そうか、ならば今ここで読むがいい。』
『いいんですか?ありがとうごさいます。』
ひなは文机を挟んで信長の前に座ると、丁寧に市からの書簡を開いた。