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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第58章 殊塗同帰(しゅとどうき)


『毒だと言って解毒剤をお前に渡したのは、優しいお前ならば必ず一人で隠し通すと考えたからだ。

万が一、信長に飲ませていたとして、毒に侵されていない者には何の影響も無い…が、

解毒剤は無くなるだろう。解毒剤が無ければ否が応でも死ぬしかないからな。

ああ、一人で死ぬのも癪(しやく)だからと、お前にも毒を盛った。』

(何を言ってるの!?)

『癪って!あれ?でもあの時は…。』



〜〜〜 〜〜〜 〜〜〜

『どっちにしても、私が罪悪感を抱くよう…に?』


冷たいものが背中を伝い落ちる。

帰蝶は、みわの顎をすくい、注ぎ込むように言葉を落とす。

『信長に薬を飲ませていれば、その行為自体に、

飲ませず他の者が傷付いたと知れば、その現状に、

お前は必ず心を痛めただろう。

その傷付いた心ごと俺の物にしてしまえば、

2度と俺から離れられなくなると考えたんだがな。

いかんせん、お前の思考を読み誤った。』


『…最低な人。』

〜〜〜 〜〜〜 〜〜〜


(帰蝶さんは夢の中で、私を貶(おとし)める為だと言ってたはず。

なのに、どういう事?)

帰蝶の言動に僅かな隔たりを感じ、胡乱(うろん)な目を向ける。

それを感じ取ったのか、帰蝶は僅かに眉をひそめ尋ねた。

『何か言いたい事がありそうだな。』

『言いたいことは色々とありますが、今はこれだけ。

帰蝶さんは嘘付きで、寂しがり屋なんですね。』

そう答えると、帰蝶の眉は益々潜められ、

『何をどう解釈したら、そうなる。』

溜息をつきながら背を向けてしまう。

『はい、私のいいように解釈しました。なんと答えても、きっとあなたは「違う」としか言わないでしょうし。』

(多分、最初から解ってた。帰蝶さん、あなたは嘘付きで、不器用な人だって。)

『まあいい。俺はもうすぐ黄泉の国へ行く人間だ。

俺の理想像を好きに妄想していろ。』

その言葉を合図のように、一帯を甘い香りが包む。

気付けば、辺り一面に水仙の花が咲き乱れ、色とりどりの蝶が踊っている。

やがて蝶が、その美しい羽根から、金色に輝く鱗粉を振り撒き始めた。

(やっぱり、あの時と同じ!あの時の私は、強く「生きたい」と願っていた。

だからきっと目覚められた。
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