第58章 殊塗同帰(しゅとどうき)
辛辣な言葉が溢れ、思わず手で口を覆う。
(あっ、私ったら言い過ぎ!)
ふっ、と帰蝶が目を細める。
『お前、それは褒めているのか?それとも、けなしているのか?』
怒るでは無く、笑うでも無く、ただ本当に意味が解らないという顔だ。
『えっと、一応 褒めてる割合が多いです。
それと、あなたに私の血を輸血しました。』
『輸血?』
『はい。本来なら本人か、ご家族に許可を取るべきだったんでしょうけど、
帰蝶さんは意識が無いし、ご家族が何処にいるのか解らなかったので、勝手にすみません。
私のせいで、あなたの分の解毒剤が無くなってしまったから…。』
申し訳無さそうにひなが顔を伏せる。
『意識が無い人間に答えられないのは当然の事。それと、俺には家族などいない。
そんな事を考えるなど、真面目にも程があるな。
それより、解毒剤が無い事と、輸血…とは確か血を他人に分け与えることだったな。
それに何の関係がある。』
(そうか。私のように未来を知っている帰蝶さんは、みんなが首を傾げた「輸血」という言葉の意味が解るんだ。)
『安土城の御殿医でもある家康が、先に解毒剤を飲んで回復した私の血なら、血清の代わりになるかもしれないって。』
暫く腕を組んだまま思案していた帰蝶だったが、納得したように溜息をつく。
『なるほど。佐助とかいう忍の入知恵か。』
『はい。仰る通り佐助くんが力になってくれました。』
ひなが答えると、帰蝶は心底、腹立たしげに顔を歪めた。
『せっかく… …たのに。』
『え?』
『せっかく死ねると思ったのに、と言ったんだ。』
『死ね…る?』
(聞き間違い?それとも帰蝶さんの言い間違いかな。)
『死ねると聞こえてしまいました、あはは。
やっぱり病み上がりだから、耳も調子悪いんでしょうか。』
『お前の耳は至極いいようだが?俺の呟きが聞こえるのだからな。』
自嘲気味に笑うひなを、嘲(あざけ)るように帰蝶の声が降ってくる。
『なんで、そんな風に思うんですか!?』
その問いには答えず、帰蝶は話し続ける。