第58章 殊塗同帰(しゅとどうき)
『あ、もうこんな時間…。』
日が傾き始め、部屋に西日が差す。
(なんだかドタバタしてるうちに一日が終わっちゃうって感じだな。)
『…。』
何もせず黙って座っているせいか、何処からともなく襲ってくる眠気に、瞼が閉じてゆく。
(うーん、ちょっとだけ。)
帰蝶の隣で、少し間を空けて横たわる。
そうして、ひなは ゆっくりと眠りの中に落ちて行った。
(…暖かい。この広間、西日が当たってたもんね。
畳の上なのに、背中から何かに包まれてるみたいで落ち着くな。)
『…ん?』
違和感に瞼を開く。
『えっ!?』
いつの間にか体を曲げて寝ていたのだろう。
視線の先に見える自分の腰を、背中から誰かに抱きすくめられている。
(だ、誰!)
とっさに振り向くと、腰を抱いていた男が にっこりと微笑む。
『また来てくれたんだな、俺の夢の中へ。』
『き…帰蝶さん?』
きょろきょろと辺りを見回すと、いつかの夢で見た美しい景色が広がっている。
ということは…。
『ああ、多分お前が考えている通りだ。俺の死期が近いのだろう。
毒を口にしてから、既に2〜3日は経っているしな。』
『なっ…!』
何でもないことのように さらりと告げる帰蝶に、返す言葉が無い。
〜〜〜 〜〜〜 〜〜〜
『夢と言っても、ここは黄泉の国への入り口に繋がっているらしい。
お前が喜び勇んで歩いてきたのは、三途の川の川路(かわじ)だ。
(※川路~川に沿った道。また、川へ行く道。)
目を凝らして良く川の中を見てみるがいい。』
〜〜〜 〜〜〜 〜〜〜
『この夢が、黄泉の国の入口に繋がっているから、ですか?』
ひなの言葉に、帰蝶が片眉を上げて答える。
『記憶力はいいらしいな。俺がこの夢を見ていると言うことは、そういうこと。
そう遠くないうちに、俺の命は尽きる。
こんな所で落命する予定は無かったが、因果応報というやつか。』
まるで自分を卑下するように言葉を紡ぐ。
『諦めないで下さい。おいそれと諦めてしまうような人じゃないでしょう?
いつもの したたかさは何処にいっちゃったんですか?』