第58章 殊塗同帰(しゅとどうき)
『それではな。』
そう言うと、光秀も何処かへ消えた。
(う…。思わず「はい」って言っちゃったよ。
結局のところ、二人が一体どこに行ってたのか分からず終いだったな。)
もやもやとした気持ちのまま、足を動かす。
(とは言え、ここにじっとしてても仕方ないし。
あの人の事も心配だから、やっぱり行ってみよう。
先程より、少しだけ落ち着きを取り戻した城内に安堵しつつ、廊下を歩く。
角を曲がると、倒れたまま連れて来られたもう一人、帰蝶の眠る部屋だ。
(あ、多分あそこだ。)
中には、気を失って倒れたままの帰蝶が居るだけの筈。
なのに、広間の前には二人の見張り番が座っている。
(帰蝶さんか、その仲間が何か仕掛けてくるかも、って疑われてるんだよね、きっと。)
『こんにちは。』
声を掛けると、見張り番は平身低頭する。
『はっ、これはひなさま。お休みになられていなくて、よろしいのですか?』
『今は皆さんのお陰もあって元気ですから。ありがとうございます。』
ひなも負けじと頭を下げる。そして一番 気になることを尋ねてみた。
『帰蝶の様子はどんな感じですか?』
(あくまでも平静を装いつつ、と。心配してる素振りは見せないでおこう。)
『はい、今の所は気を失ったままで、城に着いたときと、なんら変わりは無い様です。』
(そうなんだ。輸血してからもう大分、時間が経ったのに。
…効かなかったのかな。)
『あの、中に入ってもいいですか?』
『えっ!いや、しかし。』
思い切って尋ねると、煮え切らない返事が帰ってくる。
(うーん、それじゃ…。)
『仮にも私を殺めようとした男です。怖いのもありますが、このまま怖がっていては前に進めません。
恐怖を絶ち切る為にも、その顔を見ておきたいんです。』
(我ながらクサい演技だな。)
『左様でこざいましたか。では、少しの間だけ。
何かありましたら、すぐにお呼びください。』
頷いて襖を開ける。
帰蝶も元就と同じく、部屋の中央に敷かれた布団の上に横たわっていた。
元就と違うのは、側に一人の家臣もいないことだ。