第58章 殊塗同帰(しゅとどうき)
『なにが可笑しいんだよ。』
ムスッとした顔のまま、元就が呟く。
『可笑しい…んじゃなくて、可愛いって思ってたんです。』
『はー、どっちもどっちだな。』
ため息混じりに元就が続ける。
『それより、さっき夢見てたんだが。』
『夢、ですか?』
(元就さんでも夢、見るんだ。)
『今、お前が考えてること口に出したら、ここでその着物引っ剥がすぞ。』
『ええっ、なんで!?』
思わず着物の合わせを手で隠す。
『はっ、冗談だろうが。今の俺にそんな元気はねぇよ。それに、俺だって夢くらい見んだろ。』
元就が何故か遠い目をする。
『でな、なんでか解らねぇが、やけに鶏が出て来んだよな。
安土城にゃ養鶏場でもあんのか?』
『え、そんなものありませんけど?』
(なんで鶏の夢なんか…あ。)
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『みんな準備はいい?鉗子を。血が出たら、すぐに拭いて。患部が見辛いと手元が狂う。』
家康の指示する声と、短く返事をする家臣らの声、小さな金属の音だけが部屋に響く。
『ひな、ここ掴める?』
家康が指差す所に細く白い腱が見えた。
『っ!多分。』
そっと肉の隙間に指を入れる。
(っ!これは鶏肉…これは鶏肉…鶏の胸肉だと思えば大丈夫っ!!)
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(あのせい…かな?いやいや、私が考えてた事が、気を失ってた元就さんに解るわけないし…。)
ぐるぐると思考を巡らせていると、元就の声がした。
『悪い、眠気が襲ってきた。』
その瞳が、ゆるゆると閉じかけていることに気付く。
『あっ、すみません。私がいたら邪魔ですよね。失礼しま…。』
ひなが言いかけた時、元就がまだよく動かせないはずの右手を彷徨わせる。
(ん?何か探してるのかな。)
つっと、指先が ひなの膝に触れて止まった。
『邪魔じゃねぇよ、お前なら。もう少しだけ…ここにいろ。お前が横に居ると落ち着く。』
『へっ?』