第58章 殊塗同帰(しゅとどうき)
改めて見た元就の痛々しい姿に胸が苦しくなる。
どうしてこんな酷い怪我をしたのか、元就の家臣に教えて貰った時は気を失いそうだった。
体中が熱を持っているらしく、手首を掴む掌も熱い。
(まるで、大筒の熱がまだ体中を駆け巡ってるみたい。)
『ん…気持ち…いい…な。』
『へっ!?』
色香を含む声がして、元就の顔に視線を戻す。
『くっくっくっ…なーに想像してんだよ、案外と助平(すけべ)だな、お前。』
『なっ…何も想像してません!元就さんこそ変な声だ出さないでくださいよ。』
『変な声?俺はお前の手が冷たくて気持ちいい、って言っただけなんだがな。』
(うっ!そ、そうだったんだ。)
にやりと笑いながら、元就が赤くなるひなの顔を見上げる。
『なんだ?お前も大筒、担いで熱くなったのか?』
『ち、違います。馬鹿力の元就さんと一緒にしないで欲し…。』
『あー?誰が馬鹿だって?』
慌てて空いている方の手で口を抑えるが、もう遅い。
『いえ、あの、今のは言葉の綾で…わっ!』
掴んでいる右の手首を思い切り引っ張られ、ひながつんのめる。
『わっ!』
(このままじゃ怪我人の元就さんにダイブしちゃう!)
ひなは無意識に目を瞑り、左手を床に着いて踏ん張る。
…新たに痛みを訴える声は聞こえない。
(よ、良かった、怪我人を押し潰すのは避けられた。)
ホッとして目を開けると、真正面から元就に凝視されていた。
『え…。』
自分の姿を落ち着いて見てみると、元就の顔の両横に手をついて覆いかぶさるような体制になっている。
(こ、これは…まさかの壁ドンならぬ床ドン?)
目をパチクリさせて、驚きのあまりひなが動けずにいると、元就がゆっくり口を開いた。
『なんだよ、お姫さんはこういうのが好きなのかよ。
今の俺は抵抗出来ないから…お前の好きにしていいんだぜ。』
煽るような口調に、カッと熱が顔に集まるのを感じる。