第58章 殊塗同帰(しゅとどうき)
武将たちが揃って部屋を出てゆく。ひなは佐助と二人、静かになった部屋で顔を突き合わせていた。
『ひなさん、平気?』
『うん、もう本当に元気なんだよ?後遺症みたいなのも無いし。』
『いや、そうじゃなくて。』
佐助が気遣うように言葉を続ける。
『ここに残されたこと。』
『え?』
意味が理解出来ず、ひなが首をかしげる。
『君の事だから、置いていかれたって落ち込んでるんじゃないかと思ったんだ。』
(佐助くん…。)
ひなは、そっぽを向いて無表情で返事をする。
『佐助くんって…時々 酷いこと言うよね。』
『え、それは…申し訳ない。』
佐助がガックリと肩を落とす。
『フフッ。ごめん、冗談だよ。気にしてくれて、ありがとう。』
にっこり笑うと、佐助は驚きに目を丸くする。
『凄いな。俺と反対で君は表情豊かで、役者にでもなれそうだ。』
クスクスと笑い合ったあと、ひなが真面目な顔で続けた。
『落ち込んで無いって言ったら嘘になる。
でも、確かに病み上がりの私が居ても邪魔になるってことも解ってる。
だから、今の私に何が出来るのか、考えてみるよ。』
佐助も『うん。』と頷く。
『それじゃ、俺は残党が隠れて無いか、安土城の周囲を見回ってくる。
ひなさんも、あまり無理はしないで。』
『大丈夫。心配してくれて、ありがとう。佐助くんも気を付けて。』
『解った。じゃ、また。』
そう言うと、佐助はいつものように、たちどころに姿を消した。
『本当に風みたいだな、佐助くんって。』
ふふっ、と関心しつつ笑ってから、ひなは空を仰ぐ。
(今の私に出来る事、か。)
少し考えてから、勢いよく立ち上がる。
(まずは…。)
ひなは廊下に出て歩き出した。城の中は未だ慌ただしさが漂う。
行き交う人の間を縫うように進むと、やっと目的の広間の前へ辿り着いた。
『失礼します。』
小さく声を掛け、そっと障子を開ける。
広間の真ん中辺りに敷かれた布団の上に、元就の姿があった。