第57章 劉寛温恕(りゅうかんおんじょ)
『でも政宗さんの言う通りだ。精製するのには数日かかる。
だけど輸血なら、そう時間は掛からない。』
『ゆ、輸血?私が帰蝶さんに!?』
当たり前のように佐助に言われて、どう返事をしたものか悩む。
『家康さま。輸血、というのは?』
三成が訝しげに尋ねる。
『ああ、阿蘭陀(オランダ)の医学書の隅に載ってたのを見たことがあるくらいで、俺も良くは解らないけど、
例えば、怪我で出血して血が足りなくなった時、他人の血を貰って、怪我人の体に入れる事らしい。』
途端に周りにいた他の家臣達が喧々囂々(けんけんごうごう)ざわつき出す。
『他人の血を己の体に入れるだと!?』
『なんて野蛮な!手長・脚長の国のやることは解らん!』
『静まれ。』
それまで黙って聞いていた信長が一蹴(いっしゅう)する。
辺りが、しんと静まり帰った。
『よく解らぬ者同士で、ああだこうだと言ったところで始まらん。
佐助、その「輸血」とやらが成功する確率はどの程度だ。』
『多く見積もって、2割…と言ったところでしょうか。
すみません、その前に武将以外の人払いをお願いします。』
その意図を汲み取り、秀吉が人払いの指示を出した。
… … …
少しして家臣達がいなくなった広間で、再び佐助が口を開く。
『秀吉さん、皆さん、お手数をお掛けして、すみません。
俺達が500年後から来た事を、あまり家臣の皆さんには知られたく無かったので。
まあ多分、頭の可笑しな忍の戯言だと思われるだけでしょうけど、念の為。』
『いや、俺こそ気付かずにすまない。もう大丈夫だ。気兼ねなく話してくれ。』
秀吉に促されて、佐助は話を戻す。
『はい。俺達がいた500年後の世では、怪我や病気で血が足りなくなった時、輸血するのは至極 当たり前の事です。
内臓の機能障害で血液が作れない人もいて…数刻かけて体中の血をそっくり入れ替える、という治療もあります。』
『体中だと!?』
驚きのあまり、慶次が愕然とする。
『おいおい、そんなことしたら人が変わっちまうんじゃねえのか?』
(あー、私も子供の頃、「体中の血を入れ替える」って聞いた時は同じ事、思ったなぁ。)