第57章 劉寛温恕(りゅうかんおんじょ)
『ひなさん、ひなさんは解毒剤を飲んだんだよね。』
『あ…うん。』
未だ気にしているのか、ひなが伏し目がちに返事をする。
『それで今は、すっかり元気になったんだね。』
『多分。自分では至って元気だと思うよ。』
(佐助くん、さっきから何が言いたいんだろ?私の体を心配してくれてる…ってだけじゃないような。)
『そう、良かった。それじゃ、君に1つ頼みがある。』
いつにも増して真剣な顔で言われるものだから、ひなも何事かと構える。
そんなひなの両肩を掴み、佐助が顔を近づけ囁いた。
『ひなさん、君の…血が欲しい。』
『…え?』
意味が解らず、いっとき佐助と見つめ合う。
『…なに無駄に見つめ合ってるの。佐助も、
もっと普通に尋ねてあげなよ。』
家康が佐助の手を、むずと掴んで引き剥がす。
『あぁ、家康さんに叱られる日が来るなんて夢のようです。』
『その目やめて。三成とは違う意味でウザいから。』
(佐助くんの愛が伝わるのには時間がかかるみたいだな。…って、そういうことじゃなくて!)
『私の血が欲しいって、どういうこと?』
『うん、ごめん。人に「血が欲しい」なんて言う機会なかなか無いから、ドラキュラ伯爵風に言ってみたくて、つい。』
『つい、って。』
(佐助くんって相当 天然…。)
目が点になっているひなに、家康が教える。
『血清だよ。』
『けっせい?』
『そう。例えば蛇毒なら、その蛇を大量に集めて毒を絞り出し精製する。
それが血清と言って解毒剤になるんだ。
1度、毒に侵された血も精製すれば、立派な解毒剤になるはずだ。』
『毒から解毒剤が出来るの?』
ひなが驚く。家康は一つ頷いてから上から下までひなの体を見やる。
『ただし、それには大量の血が必要だし…。』
(へっ、大量って、どの位!?)
『精製なんて相当時間がかかるから、出来上がった頃には帰蝶はきっと…。」
『死んでるな。』
まるで「空は青いな。」とでも言うような、当たり前の口調で政宗が言い切った。
『そんなあっさり言わないでよ、政宗。』
(大量に血を抜かれたら、私だって命ないかもしれないのに!まったく、時々、寒気がするほど冷たいこと言うんだから。)