第57章 劉寛温恕(りゅうかんおんじょ)
『信長さま!』
先に声を上げたのは、家康だった。
『え、いつの間に。』
ひなが驚いて首だけを後ろに向ける。
(背後に立ってるの、全然 気付かなかった!)
『信長さま、ご無事で何よりです。それから…暴言を吐いたこと、すみませんでした。』
家康が深々と頭を下げる。
『はて、そんなことがあったか?秀吉。』
信長は、わざとらしく小首を傾げながら、隣に立つ秀吉に問い掛ける。
『さあ、いかがだったでしょうか?大砲の音を聞き過ぎたせいか頭痛がして思いだせません。』
頭を抱えながら、秀吉も それに従う。
『ありがとう…ございます。』
目を伏せたまま、家康が礼を述べた。
『それはそうと、俺の兄弟共が、えてして短絡的なのは何故だろうな。』
『え?』
ひなは、信長に背中から抱きすくめられていた。
『な、なにを…。』
『なにを、ではないわ。全く伝わっていない様子だが、これでも心配していたのだがな。
俺の大切な妹になったのならば、「私なんかが」などと卑下してくれるな。
ま、貴様に至っては、短絡的なのも鈍感なのも今に始まったことではないか。』
(うっ!涼しい顔で言われると、地味に傷つくなぁ。)
『解毒剤など、無ければ作ってしまえばよいだけだ。なぁ、家康。』
『そんな簡単に言われても。』
(ほら、家康だって困った顔してるし。)
『すっかり忘れているようだが、貴様は何処から来た?
さぞ医療技術も進歩していただろうな。』
『そりゃそうでしょうけど、私にはどうすることも…。ふぎゃっ!』
困り顔のひなの鼻を、信長が後ろから摘んで言った。
『解らんとは逆に恐れ入るな。貴様、一人で来たのだったか?』
『え?…あ、佐助くん?』
信長を振り返り、そう告げると、信長も静かに頷く。
(そうだよ。佐助くんなら、何かいい方法を知ってるかも!)
『でも…佐助くんが今、何処にいるのかも見当がつきません。』