第57章 劉寛温恕(りゅうかんおんじょ)
それぞれの戦いを終え、皆が ひなの待つ安土へ集まろうとしていた。
『ねぇ、家康。他の皆はまだ戻らない?』
ひなが家康に耳打ちする。
『…さっきから、ひとつ息、吸うごとに同じこと聞かれてるんだけど?』
うんざりした顔の家康が答える。
『えっ!?そんなに聞いてた?』
『はぁ、自覚ないわけ?まったく。』
ブツブツと文句を言う家康の横で、眉を八の字に寄せてひなが言う。
『だって、こんな姿 見てたら誰だって心配するよ。』
視線を送った先には、額に汗を浮かべ苦しそうに眠る元就の姿があった。
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家臣たちに安土城へ担ぎ込まれた時、元就は意識も無く青い顔をしていた。
良く見ると肩口は、火傷でもしたのか赤黒く変色し、抉(えぐ)れている所もある。
『どうしたらよいのか解らず、抉り取れた肉は、冷やしながら一緒に持って参りました。』
家臣の一人が大事そうに小さな包を差し出す。
『見せて。あと元就さんをそこに。』
今まで、ひなが寝ていた隣に新しい布団が敷かれており、家臣たちが元就を運ぶ。
『冷やした判断は正解だね。あとは…なんとか頑張ってみる。
血を見ても平気な奴、多少なりとも医学の知識がある奴、2〜3人、俺の手伝いをしてくれ。』
『はっ!』と数人が手を上げて前に出る。
『家康、私も手伝うよ!』
ルーペを片目に掛け、家康が少し考える。
『それじゃ、ひなは湯を沸かしてきて。出来るだけたくさんだ。
それから綺麗な手拭いも多めに用意して。』
『解った。』
大きく頷いて、ひなは台所に走る。
家康は羽織を脱ぐと改めて元就を見る。
『かなり酷いな。いったい何したら、こんな状態になるわけ?』
呟くと、家臣がそれに答える。
『浅井長政の隊を足留めする為に大砲を…肩に担いで撃っておられました。』
『あー、大砲を肩に担げば火傷もするよね〜。』