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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第56章 相即不離(そうそくふり)


謙信の言葉に、義景が思案する。

『ひな…鷺山殿が申されていた信長の妹君か。その娘なら、鷺山殿に飲まされた毒で今頃は虫の息だ。

今から行ったところで、会えるのは冷たくなった屍だけぞ!ウハハハハ…』

狂ったような高笑いが湖に響く。

『貴様…。』

『待て、謙信!』

信玄の言葉よりも速く、謙信の刀が義景の乗る馬の首を伐り落とした。

鈍い落下音と共に、赤い飛沫(しぶき)が そこらじゅうを染め上げる。

『ぐうっ!』

義景は馬上から転がり落ち頭でもうったのか、仰向けに倒れたままピクリとも動かない。


『う、うわぁぁぁ!!』

近くにいた側近は腰を抜かして慌てている。


『バカ野郎…。』

信玄が小さく呟いた。

『義景に何かあったら、帰蝶の居場所を問い質(ただ)せないだろう。

つまりは解毒剤のありかも解らないってことだ。』

謙信は表情を変えずに言う。

『斬ったのが こいつの首で無かった事を喜べ。それに…知っているのが、こいつだけとは限らん。』

地面に転がる肉の塊を視界の隅に入れながら、謙信の馬が一歩前に出る。

『おい、貴様ら。貴様らも、こうなりたいなら逃げるなり刃向かうなりするがいい。

だが、まだ首と胴体を繋げていたいなら、知っていることを全て吐け。』

氷のように冷えきった声を投げ掛ける。

しばし固まっていた側近達だったが、一人がチラリと義景の姿を見やり、おずおずと喋り出した。

『お、畏(おそ)れながら申し上げます。』

『話せ。つまらん情報なら…斬り捨てる。』

側近は更に声を上擦らせつつ続けた。

『鷺山殿から、信長を討つ為に手を組まないかと持ちかけられた時、戦を好まぬ義景さまは断られたのです。

ですが同じ頃、寵愛するご側室と嫡男の阿君丸(くまぎみまる)さまが次々と病に伏されました。

医者に治る見込みは無いと言われていた所へ、鷺山殿が再び現れたのです。症状を楽にする薬があると。

確かに、鷺山殿が持ってこられた薬を飲むと、お二人は心なしか お元気になられたのです。

それで義景さまは、手を組むことを決意されました。しかし…。』
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