第55章 胡蝶之夢(こちょうのゆめ)
(…なんだろう。 体がフワフワする。)
まるで水の上に浮かんでいるみたいだ。
ひなは恐る恐る目を開ける。
(ん?なんだか、さっきより目が開けやすいような。)
体も全く痛くない。
そこで、ひとつの考えに辿り着く。
(そっか、これ、夢だ!よーし…せっかくだから楽しんじゃお。)
むくりと起き上がると辺りを見渡す。
底が見えるほど透き通った大きな川が流れ、辺り一面 色鮮やかな花が咲き誇る。その芳(かぐわ)しい香りと美しさにに目が眩みそうだ。
花を目当てに来たのか、沢山の蝶が舞う。
『うわぁ…綺麗!』
(私の乏しい想像力で、こんな綺麗な景色が作れるなんて…それに香りまで!夢ってやっぱり凄い!)
嬉しさに笑顔を浮かべながら、ひなが歩き出す。蝶達も それに付き従う。
暫く、そうして川の畔(ほとり)を歩いていると、目の前に蝶が群がるように飛び交っている場所がある。
(珍しい花でもあるのかな。それとも物凄く甘い蜜をもつ花だったりして。)
興味津々で近付く。
(ん?花じゃ…ない?)
もう一歩。
ひなが踏み出した時、群がっていた蝶達が花火のようにパッと散っていった。
よく見ると真ん中に誰かが立っている。
『え、あれって…。』
その誰かがゆっくりと振り返った。
女性と見紛(みまご)う程の整った顔は、紛れもなく自分に毒を飲ませた張本人、帰蝶だった。
(夢なのに足がすくむ。)
『ひな、やっと来たか。待ちくたびれたぞ。』
(やっと来たかって…。私の夢だってば!)
『勘違いするな、お前の夢に現れているのではない。俺の夢に、俺がお前を連れてきたのだ。』
『えっ!?』
(どういうこと?)
首を傾げる ひなを気にも留めず帰蝶は話し続ける。
『夢と言っても、ここは黄泉の国への入り口に繋がっているらしい。
お前が喜び勇んで歩いてきたのは、三途の川の川路(かわじ)だ。
(※川路~川に沿った道。また、川へ行く道。)
目を凝らして良く川の中を見てみるがいい。』
(帰蝶さんの夢が黄泉の国へ繋がってる?そんなことって、ありえるの…?それにこんな綺麗な川を三途の川だなんて。)
憤(いきどお)りながら川底を見つめると、何かが動いているのが見え目を凝らす。
(…ん?)