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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第53章 川上之嘆(せんじょうのたん)


『夜分に失礼致します。久兵衛でございます。信長さまに至急お取り次ぎを!』

『こんな夜更けに何事だ。光秀はどうした?』

秀吉が尋ねる。

『光秀殿は諸般の理由で不在のため、直接こちらに出向いた次第でございます。』

『まったく、あいつは ふらふら、ふらふらと…。』

秀吉の顔が怒りに歪む。

『いつものことだ、そう立腹するな、秀吉。』

『はっ。』

秀吉は納得のいかない顔で返事をする。信長は気に止める様子もなく、外に声を掛けた。

『入れ、久兵衛。』

『失礼致します。』

音もなく広間に入ると後ろ手に障子を閉め、信長らの数歩手前で膝をつき低頭する。

『それで?どうしたのだ。』

秀吉が言葉の先を促(うなが)す。

『はっ。昨日の明け方、越前より朝倉義景率いる軍が、ここ安土へ向けて出陣したとの情報が入りました。』

『なんですって?』

三成が珍しく驚きの声をあげる。

『…なるほど、情報が漏れた事を悟って、早めに討って出たか。』

信長は、焦るでもなく ただ不適な笑顔を浮かべる。

『最短の進路を辿っており、早ければ明日の夜には近江に入ります。』

『そうか。報告ご苦労だった。下がっていいぞ。』

『はっ。』

久兵衛は、また音も無く広間から消えた。



辺りに人気(ひとけ)の無いことを確認し、三成が口を開く。

『信長さま、大変 申し上げにくいのですが、昨今の小戦(しょうせん)で、武器・弾薬の備蓄が底をつきかけております。

先日、元就さまに斡旋を依頼した品が無ければ、我が軍は圧倒的に不利です。』

『送り出した使者達が安芸に着くのに、まだ2日は掛かるな。』

奥歯を噛みながら秀吉も呟く。

『せめて援軍でもいてくれたら良いのですが。

越後に向かわれた兼続さまが、謙信さまに書状を渡せるのは、更に先のことですね…。』

八方塞がりな状況に三成も頭を抱える。それでも信長は顔色ひとつ変えない。

『無いものをねだったところで仕方のないことだ。ならば今ある物で対抗するしかなかろう。

三成、残っている軍備を全て掻き集めろ。

秀吉、近隣の小戦から、戻せるだけ兵を戻せ。手駒は1つたりとも無駄にするな、よいな。』

『『はっ!』』
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