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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第52章 諸行無常(しょぎょうむじょう)


ゆっくりと元就の手首を掴み、顕如が落ち着いた声で諭す。

『乱暴はよせ。この者にキレた所で どうにもなるまい。さあ、今、私に伝えた事を元就にも教えてやれ。』

『ちっ。』

顕如の手を振り払いながら、元就が男の胸ぐらから手を離す。

『は、はい。我が同胞の密偵が、安土城の内部で掴んだ情報は…。』

男は、信長の妹君であるひなが、所要で出向いていた地から戻る際、何者かによって毒物を飲まされたこと、

またその毒は遅効性の物で、侵された者は七日間程かけ、ゆっくりと体が麻痺していくこと、

解毒剤は敵の手中にあることなど、密偵から伝え聞いた情報を細かに語って聞かせた。

『先程も申しましたが、箝口令が敷かれており、それ以上の事は全く解りません。』

暫くの沈黙の後、元就が苦し気な声を上げる。

『俺の元から立った後って事かよ、くそっ!』

側にある木の幹を拳で殴り付ける。白い手袋が破け僅かに血が滲んだ。

『慶次の野郎、何やってんだ。兼続もついてて どうしてこんなことになるんだよ!』

ぶつけようの無い怒りで沸騰しそうな元就に顕如が告げる。

『まず私達がやるべき事は、安土へ行き正確な情報を得ることだ。…急ごう。』

顕如は、山道に隠していた馬を呼び寄せ飛び乗った。

『…行かぬのか?』

『癪に触るが仕方ねぇ。全速力で安土に向かうぞ、遅れんなよ!』

家臣達も「へいっ!」と返事をし、馬を走らせた。




砂塵を巻き上げ、黒装束の一団を先頭に元就の隊も続く。

『山城に入ったな。近江までは、あと半日といったところか。もう日暮れだ。この辺りで休息を取ろう。』

顕如が手綱を引き、馬を止めた。それに習うように行軍が止まる。

『はぁ。もどかしい事、この上ねぇな。』

元就は苛立たしげに馬を降りる。とは言え、疲れていない訳ではない。

山肌に背中を預け、その場にドカッと胡座をかいて座り込んだ。

懐からキセルを取り出し煙草に火をつける。

細く息を吐き、何気なく視界の先にある小高い丘に意識を向けた時。

(なんだありゃ?)

目を凝らすと、何かに夕陽が乱反射しているのが見えた。


(!!)


『伏せろーーー!』

元就の怒号が飛ぶ。次の瞬間、


『ぐわっ!』


けたたましい銃声と、家臣の呻き声がする。
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