第52章 諸行無常(しょぎょうむじょう)
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一方、こちらは播磨の外れ。もう少しで顕如の治める摂津の地に入ろうかという辺り。
怒涛の勢いで尼子軍を討ち負かした元就一行が、
『大人しく使者を待つってぇのは、どうも俺の性に合わねぇ。何処で金と交換しようが俺の自由だ。』
という手前勝手な…いや、男らしい理由で、ひなの待つ安土へ向けて進軍していた。
約束の武器・弾薬と、ひなに会いたいという想いだけを携(たずさ)えて。
『つーか、まどろっこしいのは苦手なんだよなぁ。』
馬上で、ゆったりとキセルの煙を燻らせながら、元就が呟く。
『生娘じゃあるまいし、恥ずかしがってないで出て来いって。
可愛がってやるからよ!』
元就が目の前の山道に向かって声を投げる。
木々の揺れる音がしたかと思えば、黒装束の男達が元就一行を遠巻きに囲んでいた。
『おっと…数は少ないが、あんた自ら姿を見せるとはな。久し振りだな、顕如。会いたかったぜ。』
元就が にやりと悪う。
『俺は特に会いたくも無いがな。』
顕如は相好を崩さない。
『冷てぇこと言うなよ。1度は手を組んだ仲じゃねぇか。ま、あっさり ほどけたけどよ。
こちとら、ちょっと急ぎの用事があってな。もう一度手を組みたいって話なら、日を改めて頼むぜ。』
そう言うと、元就は顕如の脇を通り抜けようと馬の歩を進める。
空気が揺れ、涼やかな音と共に元就の喉元に錫杖(しゃくじょう)が突き立てられた。
『あっぶねぇな!この生草坊主、何しやがる!』
咄嗟に身を引いた元就が叫ぶ。
(※生臭坊主/なまぐさぼうず〜戒律を守らない僧。不品行の僧)
『なぜ、そのような大量の武器を持って進軍している。
答え如何(いかん)によっては…ここで殺す。』
『坊主のくせに堂々と殺生とは、いかがなもんかね。安心しろ。お前らを襲う為じゃねぇよ。』
再び前進しようとする元就だが、顕如の錫杖が退く気配が無い。
『安心は出来ん。この先には、あやつの…ひなの住む国がある。』
一瞬、顕如の目が泳いだ。
『ったく、位の高い坊さんのくせに、悟りが開けてねぇなぁ。』
『貴様!顕如様を愚弄するかっ!』
黒装束の一人が元就に向かって刀を上げる。