第51章 抑強扶弱(よくきょうふじゃく)
程なくやってきた家康も状況を聞き驚く。だが、すぐに平静を取り戻すと、信長に依頼をした。
『解りました。大急ぎで毒の解明に当たります。
信長さま、ひなに症状が出た時、側に居た方が都合がいいので、一間(ひとま)部屋を借りてもいいですか?』
『好きにしろ。それと、このことには箝口令(かんこうれい)を敷け。主要な者以外には漏らすな。
何処に斥候が紛れこんでいるとも知れん。』
『はっ。』
秀吉が短く返事をする。
『俺は謙信宛の書状をしたため、兼続に預ける。味方は…多いに越したことはない。』
… … …
ひなは家康と共に、用意された広間へと向かう。
『七日程かけて ゆっくり体を麻痺させる、って言われたんだよね?』
『...うん。』
先を歩く家康に尋ねられ頷く。
『遅効性の毒か…。それなら、ある程度 絞れるかもしれない。』
(たったこれだけの情報で?)
『ふふ、家康って、やっぱり頭いいんだね。』
『あんた、自分の立場 解ってる?帰蝶が持ってる解毒剤が手に入らなきゃ死ぬんだよ。
手に入らない可能性も視野にいれて、俺が解毒剤作るのは当たり前でしょ。』
クルリと振り返り、微笑むひなを見て家康が腹立たしげに呟いた。
『震えながら…笑わなくていいから。』
そして、ひなの体を包むように抱き締めた。
『ごめん、家康。だんだん麻痺してくとか、やっぱりちょっと怖い…かな。
はぁ、なんだか瞼まで重くなってきちゃった。疲れてるのかな、私。』
『えっ!?』
家康が慌てて抱き締めていた腕をほどき、屈(かが)んでひなの顔を覗き込む。
(まずいな、眼瞼下垂か。 麻痺が出だしてる。)
(※眼瞼下垂~まぶたを持ち上げる筋肉の力が弱まり、十分に目が開かなくなる状態のこと。)
『大丈夫だから。ひなは俺達の事信じて、呑気に寝てれば。』
既に広間に用意してあった布団に ひなを寝かせ、静かに障子を閉める。
『絶対に解毒剤を作ってやる。後の事は、頼みましたよ。』
誰にともなく言うと、家康は足早に医学書や薬草を取りに御殿へ戻った。