第51章 抑強扶弱(よくきょうふじゃく)
夜になり、慶次と兼続は、ようやく安土城下に帰り着いた。
『慶次!兼続さん!』
城の門前で、ひなが大きく手を降っている。先に着いたのに中に入らず待っていたのだろう。
『あの馬鹿。』
慶次が呆れ顔で走り寄る。
『なんで さっさと中に入っとかねえんだ。』
頭を撫でると、夜風に曝(さら)されていたせいか冷たい。
『おい、体冷えちまってんじゃねぇか。行くぞ。』
二人に挟まれるようにして、ひなも城へと向かう。
広間に呼ばれ中に入ると、高座で脇息(きょうそく)に もたれる信長と、脇に控える秀吉の姿があった。
慶次らと共に、ひなも頭を垂れる。
『随分と お早いお帰りだな。だが無事でなによりだ。』
『『ははっ。』』
『して、交渉は上手く行ったのか?』
信長が慶次とひなを交互に見る。
『はっ、武器調達の交渉、全て滞りなく。急ぎ安芸へ使者を送る予定です。』
満足げに頷くと、信長が軽く身を乗り出した。
『それで?ひな、何があった。』
(うっ。私いたって普通にしてるのに。相変わらず信長さまって鋭い。)
『い…。』
『いえ、何も。などと、阿呆なことを、まさか言うまいな。』
(ううっ!)
『失礼ながら、それは俺の口から。』
そう言うと、慶次が事の次第を簡単に話した。
『ど、毒だと!?』
秀吉が血相を変えてひなに歩み寄る。
『今は大丈夫なのか?』
『うん、全然 平気!まだ半日経ったくらいだから。』
ひなが作り笑いを浮かべる。
『…貴様が居ると本当に退屈せんな。秀吉、家康を御殿から呼んでこい。』
『御意。』
床を擦る足音が障子の向こうに消える。
『慶次、兼続、こやつの護衛 ご苦労だった。慶次は安芸に送る使者達の準備にかかれ。
兼続、そなたには謙信宛の書状を届けて欲しい。しばし待っていてくれ。』
『はっ。』