第50章 当意即妙(とういそくみょう)
『すみませんねぇ、旦那様方。生憎、今日は団体の泊まり客がいて1部屋しか ご用意出来なくて。』
『いや、急に無理言って、すまなかった。構わねぇよな、ひな。』
『あ、はい、ありがとうございます。』
人の良さそうな宿の主人に謝られると、ひなも嫌とは言えない。
『少し狭い部屋になりますが布団は三組ご用意しましたので。
何かあったら どうぞ何でも仰ってください。それでは、どうぞごゆっくり。』
深々と頭を下げ、宿の主人が出て行く。
『あ、あはは。ビックリだけど、1部屋でもあって良かったよねー。』
(ううっ、声が上ずっちゃってる。)
『…俺は廊下でいい。』
兼続がボソリと呟き部屋の外に出ようとする。
『兼続、それは、俺がひなと二人っきりになってもいい、って事だな?』
慶次が、ひなに流し目を寄越す。
(なっ…!)
『何っ?そういう意味じゃないだろう。』
珍しく声を荒げた兼続に、慶次は飄々と答える。
『なら、部屋の中に居て俺を監視してた方が いいんじゃねえか?それに今夜は冷えそうだし、な。』
(あっ、廊下で寝たら体を壊すって、心配してる?)
『…相変わらず、お前の気遣いは解り辛いな。』
ふん、と鼻を鳴らして兼続が振り返る。
(ふふ、なんとなく兼続さん、嬉しそう。確かに風邪引かれる方が心配だし。それに私さえ気にしなければいいんだもんね。
一緒の部屋で寝るくらい、全然どうってこと…。)
『…あるっ!』
『急に大声を出すな。耳がつぶれる。』
『いや、つぶれると思うんなら、もう少し離れてください!』
兼続の胸を腕で押し返す。
『仕方がないだろう。この狭さなんだ。布団三組引くには、これが限界だ。』
(っ、そうだけどっ!!)
『なら俺と一緒の布団で寝るか?ほら、こっち来い。』
背中から慶次がポンポンと布団を叩く音がする。
『んもうっ!だから、なんで私が真ん中なんですか!』