第49章 海誓山盟(かいせいさんめい)
入れ替わりで元就が戻って来た。
『終わったみてぇだな。』
ふと、ひなの顔を見てギョッとする。
『なっ…おい、こいつに何かされたのか?』
眉間に皺をよせた元就が、ひなの顔を覗き込んで尋ねる。ひなが ふるふると小さく首を振る。
それに合わせて、またポロポロと雫が落ちた。
『てめぇ…。』
慶次に殴りかからんとする元就の袖を、ひなが慌てて引っぱる。
『違うの、これは…。消毒液が…染みて痛いだけ。』
一瞬、動きを止めた元就が、はぁーっ、と呆れとも安堵ともつかない息を吐く。
『ビックリさせんな。』
『心配かけて、ごめん…。』
肩を竦めるひなを横目に慶次が笑いを堪えて言った。
『かの謀略王も形無しだな。』
『はっ!人に言えた義理かよ。さて、ひとまず落ち着いた所で本題に入るとしようぜ。』
元就がスッと表情を変える。
(そうだ、私達、信長さまから大事な命(めい)を預かってきてるんだった。)
『ああ、そうだな。』
慶次も居住まいを正す。
『越前の朝倉義景が怪しい動きをしてる。恐らく、信長さまに戦を仕掛けようとしてるんだろう。』
『朝倉…ああ、信長包囲網を張ってたうちの一人か。』
(やっぱり、元就さんも知ってるんだ。)
『そうだ。武田・上杉が信長さまと同盟を組み、顕如も動かない今、焦れたんだろうが…。』
そこまで話すと慶次が言葉を切る。
『なんだ、何か気掛かりな事でもあんのか?』
『いや、信長さまの義理の弟でもある浅井長政も、それに付き従ってるらしくてな。』
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『さて、浅井家だが。俺の妹の一人『お市』が嫁いだ先だ。
だが、俺に牙を剥いたとなれば斬り伏せるだけだ。』
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あの時の迷いのない信長の声が頭に甦る。
『またお前は、いらねぇ心配してんだろ。』
ひなのオデコを元就が軽く弾く。
『あいたっ!だって、兄弟で戦なんて…。』