第49章 海誓山盟(かいせいさんめい)
(ん?二人とも?)
元就の言葉に慶次の姿を確かめると、着物の肩口が切れて血が滲んでいた。
『嘘、慶次も血が出てる!?』
(いったい、いつの間に…。)
『銃弾で弾き飛ばした小刀が肩を掠めたんだよ。言っとくが、わざとじゃねえぞ』
元就が淡々と説明する。
『解ってるよ。俺が あんたの立場なら同じ事をしただろう。助かった、恩に着る。』
慶次が礼を言う。
『そうか。恩を売ってて損はないだろうからな。行くぞ。』
外套を翻し元就が歩き出す。ひなと慶次も、それに従った。
少し歩くと潮の香りが強くなり、海が近いことを知らせてくれた。
『着いたぜ。ここは俺達が仮住まいしてる屋敷だ。』
『お邪魔しまーす…。』
こざっぱりとして、無駄な物が無い。
『適当に座ってくれ。今、医者を呼んでくる。』
元就が部屋を出て暫く後、一人の男を連れて戻ってきた。
『こいつは俺の船の船医だ。頼んだぞ。』
元就は男に一声かけ、すぐにまた出て行った。
(船医?そうか、元就さんは大きな船を何隻か持ってたよね。きっと、それで旅することもあるんだろうな。
長旅になれば、お医者様も必要だよね。)
『失礼致します。』
医者が慶次の側に寄り、肩に触れようとすると、慶次がサッと肩を引く。
『俺のは掠り傷だ。先に こいつを。』
そう言って、さり気なく、ひなを気遣う。
『では、お嬢さんから。』
『私も掠り傷だから大丈夫です。』
医者は遠慮するひなの首元を押さえていた肩掛けを、そっと取る。まだ血の滲む首を見て医者も同意した。
『いや、確かにお嬢さんの方が酷いね。』
木綿にアルコールを含ませ、傷口を消毒する。
『!!!』
ひなが声にならない声を上げて目を潤ませた。慶次が、ひなの手をギュッと握りながら溜め息をつく。
『ったく、どこが「掠り傷」だ。泣くほど痛いんじゃねぇか。』
軟膏を塗り包帯を巻く頃には、ひなの意思に反してポロポロと涙が溢れていた。
『はい、終わりましたよ。』
『あ、ありがとうございます…。』
医者は手際よく慶次の肩の治療も終えると、「お大事に」と部屋を出ていった。