第49章 海誓山盟(かいせいさんめい)
『ふふっ、誰が貴様と交渉すると言った。行くぞ!』
『きゃっ!』
女が、ひなの手を掴んだまま茶屋の外に出る。
『待てっ!』
『おっと。歯向かえば こいつの命は無いぞ?』
そう言うと、女は また、ひなの首もとに小刀を這わせる。
『うっ。』
ひなの首に赤い筋が重なる。
『よせ!鷺山(さぎやま)殿は生かして連れて来いと言われたのだぞ。』
武士の一人が叫ぶ。
『…こいつ、死地を渡り歩いて来た信長の影武者だろう?この程度では死なんわ。どれ、どこまで耐え得るか試してみるか。』
口の端を上げて女が小刀を持つ手に力を入れた。
ズガーン!
『ぎゃっ!』
町中に不釣り合いな銃声が響く。同時に女が持つ小刀が弾き飛ばされた。
その隙に、慶次が女の手から ひなを奪う。
『ひな、大丈夫か?』
『うん、ありがと、慶次。』
女が般若のような顔で辺りを見回す。
『くそっ…何者だ!』
通りの向こうから、ゆっくりと近付く人影がある。
(あ、あの銀髪は…。)
『おいおいおい、誰か知らねえが、俺の領土で好き勝手して貰っちゃ困るなぁ。』
消炎の立ち上る銃を片手に、元就が不適な笑みを浮かべていた。
いつの間にか武士の回りを、浅黒い肌の男達が取り囲んでいる。
『ちっ!この場は引くぞ。』
女の言葉に、武士達は逃げるように その場を去った。その姿が見えなくなるのを確認して、元就がひなの元に駆け寄る。
『ったく、遅ぇと思って来てみりゃ…。お前は予想の斜め上を行くな。』
『お久し振りです、元就さん。お騒がせして、すみません…。』
『おっと、頭下げんな。着物に血がつく。』
元就が、自分の肩掛けで ひなの首元をそっと押さえる。
(あー、さっきの女の人に首、傷つけられたんだっけ。)
『って、これじゃ元就さんの肩掛けが…。』
『気にすんな、安物だ。兎に角、二人とも屋敷に来い。まずは手当てをしないとな。』
『悪いな、毛利の。』