第49章 海誓山盟(かいせいさんめい)
『貴様、織田家の家臣、前田慶次だな。』
(だ、誰?)
屈強な武士が数人、二人の前に立ちはだかった。
『いかにも。安芸にまで俺の名が轟いているとは嬉しいねぇ。野郎にまで人気とは驚きだがな。』
慶次が挑発するように声をあげる。
『黙れ、前田の出来損ないめが。さっさと後ろの女を渡して貰おうか。』
(出来損ない?なんて失礼な人達なの!?)
無意識に言い返そうと前に出るひなを、慶次が その身で塞き止める。
『お前ら、そこまで俺を愚弄するからには、それなりの覚悟があるんだろうな。』
慶次が凄むと、武士達が僅かに怯んだ。
『ひな、絶対に ここを動くんじゃねぇぞ。』
『わ、解った。』
こくこくと頷くと、茶屋の娘と共に店の隅に逃げる。
『さて、殺られたい奴から かかってこい。』
『おのれ、無礼な!』
武士の一人がスラリと刀を抜き飛び掛かる。慶次は流れるような仕草で腰の刀を抜くと、軽々と受け止めた。
『ぐぬぬっ!』
飛び掛かってきた武士は、顔を赤黒くしながら更に力を込める。
それをガンと弾き飛ばすと、また別の武士が横から切りつける。その刃を、またも難なく受け止めた慶次だったが、違和感に目を細める。
(何かおかしい。こいつら口の割には本気で 斬りかかって来てねえ気がする。)
そう考えた時だ。
『前田慶次!刀を捨てて貰おうか。』
背後から声がした。武士の刀を受け止めながら視線を向けると、茶屋の娘がひなの両手を後ろ手に掴み、喉元に小刀を当てていた。
(くそっ!この女もグルか。)
女を鋭く睨む。
『さあ、こいつを殺されたくなければ、さっさと刀を捨てろ!』
『ごめん、慶次!全然 気付かなくて…。私は気にしないでいいから、やっつけちゃって!』
『五月蝿い!お前は黙っていろ!』
女の持つ小刀が、ひなの首もとに触れる。
『つっ…。』
赤い筋が垂れ、ひなが小さく唸る。
(ひな!くっそう。)
慶次の手から、ガラン!と音を立てて刀が落ちる。
『煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、そいつは解放してくれ。』