第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
『この十年、信長さまと戦ってきて、顕如さまも門徒の人達も、もう疲れ果ててるんだ。
実は、こないだ城を抜け出して ここに来た時、聞いちゃったんだよね。顕如さまが近しい門徒の人と話してたのを。』
(こないだ…やっぱり直々 抜け出してたんだ。)
『ここらで終わりにしよう、って。』
『え?』
(終わり?何を…。)
ひなが尋ねるより先に、蘭丸が続けた。
『顕如さまは…死ぬ気なんだ、次に仕掛ける戦で。』
『し…死ぬ!?』
物騒な言葉を、ひなも無意識に繰り返す。
『うん…。今のままじゃ、着々と勢力を伸ばしてる信長さまに、いずれ顕如さまは負ける。
自分を信じて付き従ってくれてる門徒の人達が、もし人質にでもなったら、どんなひどい扱いを受けるか解らない。』
『信長さまは、そんなことしないよ!』
『…そうかな。あの人は必要とあらば女子供でも容赦なく切り捨てる人だよ。
ひなさまは知らないから、そんな事が言えるんだ。』
蘭丸の瞳が憎しみに揺れていた。
『顕如さまは自分の命を賭(と)して、終わりのない戦いに決着をつけようとしてる。』
『それって、信長さまを道連れにして顕如さんも討ち死にするってこと!?そんなの納得出来ないよ!』
思わず大きな声で反論していた。その声に蘭丸が目を瞬かせる。
『あっ、ごめん!思わず…。でも戦わない解決法方だって、きっとある。』
蘭丸の顔が自嘲気味に歪んだ。
『何度も頼んだんだ、俺も。でも全然ダメで。ひなさまなら止められるかも、って思ったんだけど…。
ごめんね、ひなさま。騙して連れてくるようなことしちゃって。』
(蘭丸くん…。)
『謝らないでよ。蘭丸くんの気持ち、私も解るから。』
(大切な人が死に急ぐのを、「はい、そうですか。」なんて受け入れられる訳がない。)