第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
『やっぱり…ひなさまと居る時は、よく笑いますよね。顕如さまって。』
蘭丸がポツリと呟く。顕如は、わずかに目を見開いた。
『ねえ、ひなさま。ずっと顕如さまのお側に居てくれない?お願い。
そうしたら顕如さまも、きっと戦なんてしなくてよくなる。また前みたいに穏やかに暮らしていけるかも!』
ひなの手を握りしめ、蘭丸が潤んだ瞳で哀願する。
『蘭丸。それは無理な話だ。』
顕如の物静かな声が、ひなとの間に見えない壁を築いた。
『私は、もう何年も信長と対立してきた。今更 引けぬ。
それに、門徒を殺された積年の怨みが消える事は無い。』
顕如の瞳は、辛い過去を思い出し仄暗く滲んでいる。
(全てのものに怒っているような悲しい瞳。)
『顕如さん。花火大会の日に私が言ったこと、覚えてますか?』
『花火?あぁ、西の湖 湖畔で行われたアレか。…お前が言ったこと?』
~~~ ~~~ ~~~
『今からでは遅いでしょうか?』
『遅い?何がだ。』
『和睦することです。10年間、きっと信長さまは酷いこともたくさんやってきたんだと思います。
だけど、日ノ本を統一して、いつか争いのない世の中に…。』
~~~ ~~~ ~~~
『そんなことを言っていたな。どだい無理な話過ぎて忘れていた。』
顕如が目を伏せる。
『次に会うのは「和睦する時だ」とも言いましたよね。私は信長さまの影武者です。
今は縁あって、信長さまの妹として安土で暮らしています。』
『妹…そうか、あの魔王と家族になったのか。それで?何が言いたい?』
ひなが一呼吸置いて続けた。
『つまり、私は今、正式に織田家の者ということ。私から顕如さんに和睦を申し込んでも、何の問題もないということです。』
ひなが姿勢を正すように座り直す。
『顕如さん、信長さまは新たな火種を消すために動きだそうとしています。
でも、私は戦なんて好きじゃ無いし、やってほしくもありません。
顕如さんが信長さまと同盟を結んだと知れば、その人達も立場が悪くなるはずだし考え直してくれるかもしれない。』