第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
カサッと落ち葉を踏む音がして、そちらを見る。
『騒々しいな。蘭丸、また来たのか? そうそう城を抜け出すと さすがに怪しまれ…。』
『顕如さん…。』
『ひな!?何故ここに。…蘭丸、お前か?』
悪さをした子供を叱るように、顕如が蘭丸に問いかける。
『町外れの甘味処に行こうとしたら迷子になったんです。
迷子になったら、近くにいる大人に言いなさい、って言うじゃないですか。
この辺で俺が知ってる大人って、顕如さまだけだから道を尋ねに♪』
悪びれる様子もなく言い放つ蘭丸に、顕如が深い溜め息を溢す。
『お前も立派な大人だろう。ひとまず二人とも中に入れ。』
『はーい!行こっ。』
『えぇっ!う、うん。』
蘭丸に手を取られ、踵を返して寺の中へ戻る顕如に着いて行く。
一歩入ると清々しい香の香りが漂う。室内も、華美では無いが、きちんと整えられており居心地がいい。
『ここで少し待っていろ。』
そう言うと、顕如が部屋を出ていった。
(なんだか顕如さんらしい素敵な部屋だな。)
手持ち無沙汰にキョロキョロしていると、顕如が盆に茶と茶菓子を載せて戻ってきた。
『そんなに目を凝らしても、やましいものは何も無いぞ。』
『えっ?そんなつもりじゃ…素敵なお部屋だなと思って。ジロジロ見て、ごめんなさい。』
ひなが しょんぼりと項垂(うなだ)れる。その姿を見て、早速、茶菓子に手を伸ばしていた蘭丸が言った。
『部屋ぐらい、いくら見ても減りませんよ。ほら、ひなさまが落ち込んじゃった。
そんなに意地悪言わないでください。』
『お前は黙っていろ。特に面白い物は置いてないと言っただけだ。』
『それなら、素直にそう言ってあげたらいいのに。』
(なんだか親子みたい。悪戯っ子と寡黙なお父さん、的な?)
『ふふっ。』
ひなは思わず笑ってしまう。
『なんだ、急に。笑うようなところがあったか?』
『あ、いえ。主従というより親子みたいだな、って。』
(あれ?顕如さん、不満そう。)
『えっと。それじゃ、兄弟みたい。』
『ふっ。変な気を使うな。甘いものが苦手でなければ、お前も食べろ。
信者からの頂き物だが、濃茶(こいちゃ)の落雁だそうだ。』
(あ、笑ってくれた。ちょっと嬉しいかも。)