第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
蘭丸はズンズンと城内を進み、気付けば城下町まで やってきていた。
(わ、私、いつの間に草履履かされてたの!?)
『手品みたい…。』
思わず呟く。
『え?手妻(てづま)のこと?』
蘭丸が聞き返す。
(この時代ではそう言うのかな。蘭丸くんは私が500年先の時代から来たってこと、知らないはずだよね。)
『あ…うん。いつのまに私、草履履いたんだろうって。』
『ふふっ、人に気付かれないように、あれこれ動くのが得意なんだ。』
蘭丸が冗談めかして告げた。
(さすが忍!)
『凄いね~。私がやったら、すぐばれちゃいそう。』
ひなが感嘆の声を漏らす。
『ひなさまの その真っ直ぐで嘘のつけないところ、俺は好きだよ。』
『!』
(反則だ!急にアイドル並の笑顔で「好き」とか。前半からかわれてる気がしないでもないけど。)
『はぁ。久し振りに いっぱい歩いたら、お腹空いちゃった!
城下の外れに美味しい甘味処が出来たらしいんだ。行ってみよっ。』
(どうして今の今まで軟禁されてたのに、そんな事知ってるの…なんて野暮なことは聞かないでおこう。
考えてみたら、蘭丸くんは顕如さんに仕えてる忍だって言ってた。軟禁されてる程度なら、悠々 抜け出してたと考える方が色々と辻褄が合う。)
『うん!』
暫く、他愛ない話をしながら二人 肩を並べて歩く。
(えーっと…もう城下の外れというよりは、山奥に近いんだけど。)
『蘭丸くん?まだ遠い…のかな?』
『ん?もうすぐだよ。』
首だけ振り返り、にこやかに蘭丸が答える。
『そっか…。でも、あんまり遅くなると、お城のみんなが心配するから、また今度 早いうちから出掛けない?』
ひなが、やんわりと断りの意思を伝えようとした時。
『着いたよ、ひなさま。』
『えっ?』
鬱蒼と茂る竹林の中。装飾は控えめだが荘厳な空気をまとった寺が現れた。
『ここ…お寺だよね?私達は甘味処に向かって歩いてたのでは無いでしょうか。』
首を捻るひなに、蘭丸が申し訳なさそうな顔で告げる。
『うん。最初はホントにそのつもりだったんだけど…。
やっぱり、どうしても会って欲しくて連れてきちゃった。』
(会って欲しいって…。)
『まさか…。』