第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
(親鳥?それって…。)
… … …
『俺が仕えているのは…顕如さまだよ。顕如さまの元で忍びとして仕えてる。ひなさまにだけは知ってて欲しい。』
… … …
(もしかして慶次は気付いてるの!?)
『…何を企んでるの?』
一段低い蘭丸の声に、ひながビクッと肩を揺らす。
『何も。もう信長さまに背く気は無いんだろう?お前を見張っている家臣達に散々 喚いてるそうじゃないか。
「俺に反逆の意思なんてない」ってな。それなら、もう捕らえておく必要もないだろうと、信長さまも同意してくれたのさ。
どうした?晴れて自由の身だってのに嬉しくないのか?』
蘭丸は何も言わず、ただ探るように慶次を見つめている。
(どういうつもりなんだろう。信長さまも慶次も…。蘭丸くんの軟禁が解けたのは素直に嬉しいけど。)
『あんたが何考えて信長さまに進言したのかは知らないけど、一応 礼は言っとくね。
じゃ、今後は何しても文句言わないでよね。』
『ああ、好きにするがいいさ。ま、文句は言わないが、信長さまに楯突くようなことがあれば、問答無用で成敗するけどな。』
二人が腹の読めない笑顔で対峙する。
(なんか空気重い。同じ場所に、い辛いな。)
ひなが眉間に皺を寄せる。
『じゃ、行こっか、ひなさま。』
蘭丸が ひなの手を掴み、軟禁されていた部屋を出る。
『へ!?』
『おい、何やってる。』
一転、険しい顔で慶次が引き留める。
『好きにしていいんでしょ。鬱憤が溜まってたから、今からひなさまと逢瀬に行ってくるね。』
とウィンクする。
『馬鹿言うな!それとこれとは別…。』
言いかける慶次に、んべーっ!と舌を出し、蘭丸はひなを連れ早足で その場を去った。
一人残された慶次は複雑な顔で呟く。
『あいつ…。泳がせたはいいが何するか心配だな。いつ本当の主の元へ向かうか解らねぇし。
ま、暫くは様子見といくか。』