第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
『戦は怖い。出来ることなら、してほしくないよ。でも、それだけじゃないんだ。
私が何の力にもなれないことが…辛い。』
『なに?』
『信長さまも皆も、口では言わないけど、私の事、戦から遠ざけようとしてくれてる。
確かに私は大したこと出来ないし、いつでも足手まといになっちゃう。それでも…皆が戦うんなら少しでも力になりたい。』
燻る気持ちを慶次にぶつける。
『お前、そんな風に思ってたのか。』
驚きと感嘆の入り交じった声で慶次が言った。少し考える素振りを見せ、ひなに告げる。
『それなら、ちょっと俺を手伝うか?』
ひなの腰を抱いたまま、慶次がズンズンと廊下を歩く。
『ちょ、ちょっと慶次。いい加減この手、離してっ!』
『ん?ああ、悪い。抱き心地が良かったんで、つい。』
(ついって…っていうか離す気は無いの!?)
そのまま、ある部屋の前で立ち止まる。
『ここって蘭丸くんが軟禁されてる部屋じゃ…。』
『ご名答!』
スッ、と障子を開けて素早く中に入る。
『ひなさま!?…と、慶次?』
(今、慶次に対して、あからさまに嫌そうな顔したよね。)
視線を落とし、ひなの腰に回された手に気付くと
蘭丸かバシッと慶次の手の甲を叩く。
『いてっ!』
『わぁ、この季節に まだ蚊がいるんだねぇ~。ひなさまが刺されたら大変だから、やっつけといたよ。
ってか、ひなさまって変な虫に好かれやすいんだー。気を付けてね!』
(うーん、何故だろう。眩しい笑顔が余計に怖いんだけど。)
『はは…あ、ありがと。』
ふと横を見ると、慶次は鬼のような顔で蘭丸を見下ろしている。当の蘭丸は、ちっとも気にしていないようだ。
『で?どうして二人して俺に会いに来てくれたの?』
探るような目で、蘭丸が慶次に問いただす。
『あぁ、お前の軟禁を解いてやろうと思ってな。』
『えっ?』
驚いた声が蘭丸と重なる。
『信長さまに交渉したのさ。いつまでも籠の鳥の如く囲っていたところで拉致はあかねぇ。
そろそろ親鳥の所にも帰りたいだろう、なんてな。』