第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
そこで言葉を切ると、
『だが、俺に牙を剥いたとなれば斬り伏せるだけだ。』
バッサリと迷いの無い声で告げた。
『えっ…。』
『話は以上だ。戻っていいぞ。』
唖然とする ひなとは対照的に、その場にいる他の武将や家臣達は、それが当たり前だとでも言わんばかりの顔で食事を続けている。
『光秀、浅井の監視は そのまま続けろ。』
『はっ。』
『秀吉、朝倉討伐隊の準備を急げ。整い次第、出る。』
『かしこまりました。』
(散々、見て感じて来たから、この乱世では戦があるのは当たり前と建前では解ってる。
…それでも本音が納得してない。ましてや、義理とはいえ兄弟を簡単に斬るなんて。)
自分の膳の前に戻っても、ひなは もやもやした気持ちが晴れず箸が進まない。
『ご馳走さまでした。』
静かに箸を置き、広間を出た。
(政宗、ごめん!政宗の作った料理、初めて残す。)
『…。』
一部始終を眺めていた慶次も、頃合いを見計らい席を立つ。
『なーに難しい顔して歩いてるんだよ。』
廊下をトボトボと歩くひなの背中から、覗き込むように慶次が声を掛けた。
『きゃっ!』
慶次が後ろから近付いて来たことに、まるで気付いていなかったせいで、ひなが着物の裾を踏んでよろめく。
『おっと!』
難なく片手で抱き止めながら、慶次が苦い顔をする。
『やっぱり、まだ戦には慣れないか。』
『えっ…。』
『お前の食欲が無い原因は、そのせいだろ。』
(私が朝ご飯残したの、見てたの?)
『わ、私だって食欲が無い日もあるよ。』
顔を背けながら口答えする。
『そりゃな。でも、さっきのは違うだろ。旨い旨い言いながら食べ始めたくせに、信長さまの話 聞いた途端、箸が止まってたじゃねえか。』
(う…。)
『解りやすすぎなんだよ、お前は。』
慶次が、ぷにっとひなの頬をつねる。
『いたっ!』
『心配するな。信長さまは何も考えずに無駄な戦をしたことなんて無いだろ?』
(それは…そうなんだけど。)